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2018年06月11日の記事は以下のとおりです。

036

 リニックもまた、一人白の空間に居た。
 そして、目の前には浮かんでいる存在が一人。

「……やれやれ、ついに『剣』の封印を解いてしまったというわけか」
「あの、あなたは……?」
「僕? 僕はね……この世界、次元、存在全てを作った『神』、その代理人とでも言えば良いかな。もっとも、彼女は力を使いすぎてね。今は少しお休みさせているんだ」
「お休み? 神の代理人?」

 いったい全体、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
 さらに、彼は話を続ける。

「僕の名前は、……いいや、名前すらも忘れてしまった。今や、地位で呼ばれることが殆どだからね。僕は影に隠れた神、その名も影神(えいしん)。一般的に神と揶揄されているガラムドはただの管理者さ。神からある一定の権利を委譲しただけに過ぎない。つまり、彼女も管理される立場であり、いつ排除されてもおかしくない。そして、その管理者の上には僕たち影神と真の神が居て、管理者の下には管理者を補佐する役割として眷属を置いた。それで世界はしっかりと回っていくはず、だった」
「だった?」
「人間はあまりにも愚かな行為を連続したのだよ。そうして一度、人間を滅ぼした。正確には、人間に選択の余地を与えた。滅びるか、種としての人類を残すために僅かな人間だけを残すか、と。結果は後者を選択した。当然と言えば、当然の結果だ」

 一息。

「一度、人間が地上から居なくなった世界は、人間以外の動物の楽園になった。動物は人間以上の知能を持たない。だから記憶エネルギーを使われることはない。まあ、そもそもあの時点で記憶エネルギーに気づく人間も居なかったわけだから、別に問題なかった訳だけれどね。でも、そこで我が儘を言い出した存在が居た」
「それは……ガラムド?」
「ご明察。ガラムドは再び人間を作ったのさ。人間を作れば、また平和な世界を送ることが出来る。実際は、管理に暇を弄んでいたんじゃあないかな。それについてはあまり考えないけれど、ともかく僕は肯定することにした。もし今度こそ人間がだめな世界を作ったらそのときは人間を滅ぼそうという判断の下、地球に自衛機能を齎した」
「それがメタモルフォーズだって言うんですか?」
「君は話が分かるようで助かるよ。そうだ、その通りだ。メタモルフォーズは地球の自衛機能を持っていた。つまり、地球に何かあったらメタモルフォーズが攻撃をする。そうして地球に自衛機能を持たせることにした、というわけさ」
「でも、偉大なる戦いが起きてしまった……」
「ああ、君たちはそう呼んでいるんだったね。僕にとってみれば愚かな争いだよ。人間は、とうとう記憶エネルギーの存在に気づいてしまった。まあ、メタモルフォーズも永遠に動ける訳では無い。記憶エネルギーの詰まったエキスを定期的に補充する必要があった。その為に生み出されたのが、知恵の木の実だ。それに、人間は気づいてしまった。気づいてしまったんだよ」

 さらに、影神は歌うように話を続ける。

「知恵の木の実から生み出されるエネルギーは、これまでのエネルギーとは違いクリーンで莫大なエネルギーを生み出すことが出来る、ということに人間は気づいてしまったんだ。これは不味いと思ったのが、僕たち神であり、管理者であるガラムドだ。直ぐに、自衛機能を働かせて人間の数を減らそうと試みた。しかしそれでも人間は争い――最終的に、どうなったかは君が良く知っていることだろう」
「もともと一つだった星が六つに分割した、ということですね……?」
「そうだ。そもそもあの星は分割されるべきではなかった。分割されると言うことは、記憶エネルギーの容量が減るということなのだから。それに、記憶エネルギーは最終的に減少傾向にあることは分かっていた。だから、記憶エネルギーを一度充填せねばならなかった。それが、君たちの知る『血の海』だ。あれは人間やその他動物を液体にすることで、一度記憶エネルギーにした。それは誰も悪いことじゃあない。悪いのは、ここに生まれた君たち自身だ」
「でも、それは……」
「人間はこの世界を滅ぼす存在だ。だからこそ、人間は一度滅ぼした。にも関わらず、この世界は滅び行く定めにある。何故か? それは人間がこの世界の記憶エネルギーを無駄に使い倒してきているからだ」
「違う! 人間は、変わろうとしている。絶対に、世界を滅ぼすなんてことはあり得ない」
「あり得ない? それは誰が言っていることだ。誰が保証することだ。誰が宣言することだ! この世界を滅ぼそうとしているのは、他ならない人間どもだ!」
「そうかもしれないな。確かにそれは間違っていないよ」

 影神の背後から、声が聞こえる。
 剣を構えていたのは、カラスミだった。
 カラスミはその剣を影神の首に当てていた。

「……何がしたい?」
「動くな。その時点でお前の首をかっきるぞ」
「……面白いことを考えるモノだね、人間のくせに」
「五月蠅い。ここは何処だ。我々は何のために連れてこられた。理由をはっきりと述べろ」
「と言われてもねえ……。君たちはあくまでも、リニック・フィナンスの『ついで』にやってきただけに過ぎないし」
「何だと?」
「そもそも、影神と人間が対等の立場に居る時点で間違っているということに、何故気づこうとしない?」

 その場から姿を消す影神。

「何処だ! 何処に隠れるつもりだ!」
『本来ならば……誰にも見せることは無いのだけれど、これは余興だ。君たちに見せて上げようじゃあないか。少々パーツが足りないけれど、致し方ないことだ。これについてはオール・アイに責任を取って貰うことにしよう』
「何をするつもりだっ」

 彼女の言葉を遮るように、目の前の白い壁が上にスライドしていく。
 そこには宇宙空間が広がっていた。そして、それぞれの星がちょうど見える状態になっている。
 その星がゆっくり、ゆっくりと動いているのが感じられた。

「……まさか、影神! お前はいったい……」
『剣の力を利用して、この世界をもう一度一つにする。その衝撃で今生きている動物は滅んでしまうかもしれないが、記憶エネルギーは充填されている。そこから生物を生み出すことなど造作も無い。さあ、止めたいと思うなら止めてみるが良い、リニック・フィナンス!』

 

035

 メアリーは驚いていた。
 何故?
 何故、そこに剣が揃ってしまったのか?
 何故?
 何故、剣の同調の中心にリニックがいるのか?

「これは……いったいどういうこと?」

 メアリーは今の状況が理解できなかった。

「総帥!」

 状況を整理するために追いついてきたライトニングとレイニー。
 そして、その状況を直ぐに理解できたのは、ライトニングのみ。

「……これは、同調が始まった合図なの」
「同調……ですって?」
「シルフェの剣は、オリジナルフォーズの力を封印するためのものだったの。つまり、百年前に復活したオリジナルフォーズは完全な力を持ち合わせてはいなかったの」
「どういうことっ。それってつまり、」
「未だ、オリジナルフォーズは完全に倒されていない、ということなの。……あなたたちが百年前に、別の次元に封印したそれは、全くの偽物。本物は、もう一つ上の次元に眠っている」

 ごごごごご、と地面が唸る音が聞こえる。
 リニックの頭上に、真っ黒い穴が出現する。

「何よ、これ……。いったいどういうこと……!」

 メアリーの言葉にライトニングは答えない。ライトニングは、それどころかリニックの身体にしがみついた。

「ライトニング! あなた、いったい……」
「あなたも知りたいでしょう、この世界の、オリジナルフォーズの真実を! そして、予言の勇者、フル・ヤタクミと出会いたいでしょう!」

 今までの口調とは違うそれは、別人かとも思わせた。
 しかし、違う。
 それは大いに間違っていた。
 そして今は――彼女の指示に従うしか無い。そう思って、メアリーもしがみつく。
 慌てて、レイニーもしがみつく。

「待ちなさい!」

 双方からカラスミとオール・アイがやってくる。
 何とか彼女たちを追い払いたいところだが、ここで手を離してしまうと二度とリニックに出会えない気がする――不思議とそう思った彼女たちはそのまましがみつくだけだった。

「カラスミ=ラハスティ! あなたもこの剣の真実を知りたいでしょう! ならば、しがみつきなさい、そのリニック・フィナンス……いいえ、剣の『器』に!」
「何ですって? あなたいったい何を」

 オール・アイは何とかリニックの足にしがみついた。

「いいえ、今は迷っている暇など無いわね!」

 カラスミも残っていた右足にしがみついて、それでも何とかリニックの身体は浮かび上がっていく。
 そして、リニックたちの身体は完全に消失した。


 ◇◇◇


 そこは白い部屋だった。
 そこは白い空間だった。
 そこは空と地上の境界が定かでは無い場所だった。
 そんな場所に、メアリーは一人置き去りにされていた。

「……そんな、リニックたちと一緒にやってきたはずなのに……。どうして?」

 リニックは居ない。
 ライトニングは居ない。
 レイニーは居ない。
 カラスミも、オール・アイも居ない。
 誰一人居ない世界。
 誰一人居ない空間。
 何も存在しない間。

「……でも、何処か懐かしい」

 そう、それはまるで母の腕の中で眠る赤子のような感覚。

「……でも、来たことが無い空間」

 ここはメアリーが来たことの無い空間だった。
 ゆっくりと、周囲の探索を開始する。
 歩き始め、少しすると、何かのオブジェが浮かび上がった。
 それはまるで十字架のような何かだった。遠くから見ると何だか分からなかったが、近づいていくとそれが何であるか定かになっていく。

「フル……?」

 それは、ある一人の人間が磔となった姿だった。
 フル・ヤタクミ。
 かつての予言の勇者であり、別の次元に封印したオリジナルフォーズごと消えてしまった――はずだった。
 そんな彼が、何故今ここに居るのだろうか。
 分からない。答えはまったく見えてこない。

「フル。フル!」

 フルに声をかけるメアリー。
 しかしフルは答えない。
 フルの肌に触れる。フルは冷たくなっていた。

「嘘……フルは死んでいる……」
「それは、あなたの心の世界に居るフル・ヤタクミを具現化した姿に過ぎない。とどのつまり、それはフル・ヤタクミであってフル・ヤタクミではない。意味が通ずるかしら?」
「あなたは……」

 白の世界から、地面から、ぬるりと生えてきたその存在は、白と赤を基調にした服を身にまとっていた。
 オール・アイに近いその存在は、しかして、メアリーには覚えがあった。

「あなたはご存じでしたね。お久しぶりです、メアリー・ホープキン?」
「ガラムド……。この世界の管理者にして、フルをこんな世界に閉じ込めた存在……」
「閉じ込めた、とは心外ですね。そもそもフル・ヤタクミは自ら望んでこの世界にやってきたのですよ。その意味を分かっていただきたいものですね」
「あなた……フルを閉じ込めておいて、良くそんなことが言えるわね……!」
「だから、それは心外だと言ったじゃあないですか。そもそもオリジナルフォーズを封印するためには、フル・ヤタクミという人柱が必要だった。だから彼には世界の為に犠牲になってもらった」
「世界が血の海になっても、フルが人柱になって問題ないと言えるの?!」
「……それは、ミスですよ。世界を正しく回していく上で、オール・アイが……リュージュがミスを犯した。この世界へとつなげる為に無理矢理世界を破壊しようとした。本来ならあれほどの出来事が起きたら上位存在が修正せねばならないのですが……」
「どういうこと?」
「上位存在があの世界を修正するために、人間やその他動物を一度『液体』に戻す必要があった。記憶エネルギーの媒体として地球が存在し、分割してアースと化した。しかしながら、記憶エネルギーの上限にも限界がある。限りがあるのですよ、幾ら惑星とはいえ、四十六億年分の記憶エネルギーを、人間は僅か二千年で使い切ろうとしていた。だから、管理者である私が処分を下さねばならなかった」
「処分……ですって?」
「世界を平穏にするために、記憶エネルギーの循環を強化した。あなたたちが『血の海』と名付けた現象ですよ。そもそも人間はあの世界においてウイルスと言っても過言では無かった。オリジナルフォーズはそのために世界から生み出された『白血球』と言ってもいいでしょう。そして人間であるあなたたちがウイルス。意味が分かりますか?」
「分からないわよ、いいや、分かってたまるものですかっ。それってつまり、」
「ええ。この世界はあなたたち人類を不要であると判断した。だから、オリジナルフォーズとメタモルフォーズは、世界を席巻するようになった。血の海によって記憶エネルギーは徐々に回復傾向にあります。けれども、未だ足りない。人間が使い果たしたエネルギーは、未だ足りないのです」
「記憶エネルギーを手に入れる……それって」
「記憶エネルギーを手に入れるために、私の部下が良く活躍してくれましたね。私の部下が誰であるかは、最早知っているでしょう。眷属という存在です。眷属という存在は、エネルギーを必要とする。あなたが黒い靄だと言っていたそれは……記憶エネルギーの塊。あなたも感じていたのでしょう、徐々に記憶が失われている、ということに」
「そんな……そんなことは……」

 メアリーは頭痛を感じる。

「そう。その頭痛こそが、記憶エネルギーの充填を感じたサインなのです。エネルギーには限りがある。人間はそれを使い切らなくてはならない。しかし、人間の身体とは不自由なことでそれを溜め込むことが出来ない。常に吐き出し続けなくてはならないのです。非常にもったいない。そうは思いませんか?」

 ガラムドは、メアリーの頭にそっと手を当てる。
 すると頭から黒い靄が消えていく――そんな感覚がした。

「これは、記憶を吸い取っていたということ。あなたは、祈祷師の血を引いている。だからエネルギータンクとしては有用だったのですよ。人間は記憶エネルギーを失うことで、記憶によって得られるストレスを解消出来る。つまり、人間が長生きする為には記憶エネルギーを失い、完全なる無となること。意味が分かりますか? 記憶エネルギーは、記憶というのは、人間にとって不要なのですよっ!」
「いや、いや、いやああああああああああああああああっ!!」

 白い空間に、メアリーの叫びが響き渡った。

 

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