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2018年06月の記事は以下のとおりです。

038 第二部プロローグ

「そもそも、影神はフル・ヤタクミに権利を委譲したはずでは無かったのかな? それすらも間違いだった、と?」
「影神はそもそも一柱である必要は無いんですよ。二柱でも構わない。それに、シミュレートワールドのエネルギーを管理する上で一柱ではキャパシティが足りない。だから、世界再生プログラムの実行と同時に、フル・ヤタクミを神に仕立て上げた」
「でも、影神は三柱居る。それについては?」
「それは貴方が必要と判断したからでしょう。メルキオール、バルダザール、カスパール。三位一体とはよくいった話ですが、いずれにせよ、それによって自立が成立しているのも事実」
「然様。今回の『事故』はカスパールが暴走しただけに過ぎない。そして、その為にバルダザールであったフル・ヤタクミが出動しただけのこと。世界プログラムの運用には何の変更も与えられない。それは問題の無いことだからだ」
「では、メルキオールの見解は?」
「未だあの世界には価値がある。価値がある以上はシミュレートを継続するべきだ」
「成程ね……。あなたの見解は分かりました。結果は追ってお伝え致しましょう」
「結果?」
「あそこまで世界に干渉したのです、影神が。貴方は何もしていない、と言っても影神全体の責任が問われる。貴方は辞退されることは無いでしょうが、カスパールの後任も決めなくてはならない」
「それこそ、かつて人の魂だった彼の存在を使えばいい話では無いか? 彼は独善的であり偽善者でもあったが、神としての資格は大いにあると言えるだろう。どうだね?」
「……あなたの意見はあくまでも意見として受け取っておきましょう。私が決めることですから、影神の後任については。貴方からもフル・ヤタクミ……バルダザールには言っておいてください。彼は別に悪いことをしたわけじゃあない。けれど、本来影神の暴走は止められたはず。管理者を殺すまでのことには起きなかったはず。今は彼が彼の世界の管理者をしているはずでしたが、それも時間の問題。新しい管理者を決定せねばなりません」
「神の世界も人手不足ですねえ、ムーンリット・アート?」
「巫山戯ている暇があるなら、少しは手伝って貰っても良いと思いますが」
「良いですよ? その代わり、前みたいにまたプロファイルを発行して貰わないと。僕のプロファイルはもう使えなくなっているんでしょう?」
「……前言撤回します。貴方に世界を任せたらどうなるか、あまり考えたくありません」
「眷属についても考慮しなくてはなりませんね?」
「オール・アイ、でしたか。行方不明になった眷属は。何処に消えたというのやら……。ラスト・ホープについてもあの世界に居ることを希望していましたし。ただまあ、もう記憶エネルギーを奪うことはしない、と言っていましたが」
「彼女にも罪悪感という感情でも芽生えましたか」
「さあ?」
 そうして、会話は終了する。
 ここは神の世界。人間が関わることの無い、次元の一つ上の領域でのお話。
 しかしながら、物語はここから始まらない。
 物語は、一つ次元が下の世界、ガラムド暦2135年のとある研究施設から始まるのだった――。

 

037 第一部最終話

 メアリーの記憶が、どんどん吸い取られていく。
 ガラムドに記憶エネルギーが蓄えられていく。
 ――が、それは途中で中断される。

「……何?」

 ばちっ、と電気が弾けるような音がした。
 それは、メアリーとガラムドの間に存在する『何か』だった。

「あなたは、もうこの世界に介在出来ないはず……。どうして、どうして!」
「どうして、って……」

 一息。

「愛する女のために、ピンチを救うのは良くある話だろ?」

 背中を見ていた彼女は、それが誰であるかをはっきりと目の当たりにしていた。

「……ふ、フル……!」

 そこに立っていたのは、かつての予言の勇者、フル・ヤタクミだった。


 ◇◇◇


 影神の頭にノイズが走る。

『……くっ。何だ、このノイズは……』

 その瞬間、影神は姿を見せる。透明化させていた彼の術がうまくいかなくなったのだ。

「今だ、カラスミ=ラハスティ!」
「くっ。あなたに命令される筋合いなんて無いわよ!」

 カラスミは駆け出して、影神に向かって攻撃を開始する。
 影神は何度も『上の次元に移動しようとしても』なおもそれが実現出来なかった。

「まさか……、まさか、私を見捨てたというのですかっ!! 神、ムーンリット・アート!!」

 そして、影神の姿は真っ二つに切り捨てられた。
 動かなくなった彼の姿を踏みにじり、カラスミはその骸を見つめる。

「……今、なんと言った?」
『ムーンリット・アート。私の名前です』

 踵を返す。
 そこには、一人の女性が立っていた。否、浮かんでいたといった方が正しいかもしれない。
 目を瞑っていた――或いは開けることが出来ないのか――女性は、ゆっくりと降り立って、一言呟く。

「私の名前は、ムーンリット・アート。管理者と影神に権利を委譲していた、神です。この世界を作り上げたのは全て私。そして、この世界での責任も、私が悪い。ずっと表に出ること無く、影神の様子を窺っていたのですから」
「……どういうこと?」
「影神は、私を乗っ取ろうとしたのです。私の意識を、私の精神を。そうして、彼は世界を作り替えた。それが、この世界。私は無数の世界のうち、たった一つの世界だけですが、それでも、その世界を影神によって作り替えられてしまった。あなたたちには次元が遠すぎて、何を言っているのかさっぱり分からないかもしれませんが、しかして、それは間違いではありません。貴方達の世界は、はっきり言って『不完全な世界』でした。記憶エネルギーによって生み出された、不安定で不完全で不確定な世界。それが貴方達の住む世界」

 一息。

「ですから、それは間違えなく進めなくては成りません。一度作り上げた世界は、最後まで責任を持って管理を進める。それが私たち神とその管理者の役割。……ですが、ガラムドは影神に操られ、その役割を奪われていたようですが」

 さらに一息。

「結局は、私たちが全ての責任を負わなくては成りません。世界がいくつかに分裂しました。それも元に戻しましょう。眷属が破壊した星々がありました。それも元に戻しましょう。そして、二度と私たちが関わり合いのないように、私たちの次元と、貴方達の次元での世界を絶ちましょう。そうすれば、二度と影神が暴れることはありません。まあ、もう彼は影神としては勿論のこと、存在そのものが抹消されてしまいましたが……」

 ちらり、とムーンリット・アートは影神の骸を見つめる。
 すると骸がきらきらと輝いて消滅していった。

「骸は……どうなるのですか?」

 リニックは恐る恐る問いかける。

「そもそもの話、我々は人間とは違う立ち位置にある存在です。ですから天国も無ければ地獄も無い。待ち構えているのは、永遠の無です。その意味が分かりますか」
「……いいえ、残念ながら、そこまで知識は持ち合わせていません」
「良いのですよ、それで。私は、結局、任せきっていたことが間違いだった。影神に任せきっていたからこそ、世界の暴走を引き起こしてしまった。そして、貴方達の世界もあんな風になってしまった。本当に、本当に申し訳ないことをしてしまった……」
「い、いや……そんな急に畏まられてもっ」
「結局、あの世界はどうなるつもりだ」

 カラスミは剣をムーンリット・アートに向ける。

「カラスミ! 今、君が剣を向けているのは、誰だか分かっているのか!」
「知らんね。そもそも、帝国が信仰しているのはガラムド教だ。ガラムド様以外の存在を神と認めるつもりは毛頭無い」
「毛頭無い……ですか。ふふ、それについては仕方ないことでしょう。貴方達の世界では、神はガラムドだと教えられていた。いや、正確にはそういう風に仕組まれていたのですから。だから貴方達の世界を先ずは元に戻さなくては成らないのですけれど」
「?」
「元に戻す……つまり、六つの世界を一つにする、その大仕事が最後に残されています。その為にも、先ずはガラムドから管理者の権限を剥奪しなくてはなりません」


 ◇◇◇


「なっ……?!」

 ガラムドが急に顔色を変える。
 それを見ていたフルは、今だと言わんばかりに攻撃を開始する。
 右手に構えていた剣を手にしていた彼は、そのまま攻撃を行い、ガラムドの身体を真っ二つに切り裂いた。
 ガラムドの身体はそのまま霧のように消えてしまったが、少なくとも危機は脱したのは、メアリーにも分かっていることだった。
 いや、それよりも。

「フル、まさか会えるなんて……」

 しかし、フルの姿は半分透けている状態になっている。

「メアリー。まさか僕も会えるとは思わなかったよ。……けれど、僕は一度きりしか会うことが出来ないんだ。……多分偶然というか、奇跡というか、そういう類いだと思うのだけれど、きっとカミサマがなんとかしてくれたんだ」
「カミサマ……ガラムドじゃあなくて……?」

 メアリーはフルが何を言っているのかさっぱり分からない。
 しかし、フルの身体はどんどん消えていく。

「ありがとう、メアリー。また君に会えて……。君を助けることが出来て、本当に良かった……」
「フル! フル! お願い、返ってきて!」
「それは、出来ないみたいなんだ。どうやら、僕の魂を、オリジナルフォーズを封印するための鍵として使ってしまっているみたいで、長い時間ここに滞在していると、どうやらオリジナルフォーズが復活してしまうかもしれないんだ」
「だったら、オリジナルフォーズを倒せば良い! オリジナルフォーズさえいなければ……」
「だめだ。だめなんだよ。メアリー」

 フルの身体は最早見えなく成りつつある。
 さらに、メアリーは話を続ける。

「フル! 絶対に、絶対にあなたを助ける! オリジナルフォーズを倒して、絶対にあなたを助けるから!!」

 そして、フル・ヤタクミの身体は完全に消え去った。


 ◇◇◇


 あれから。
 惑星は、一つに収まった。
 大学で起きた騒動も、一度はどうなることかと思ったが、案外誰も騒ぎ立てておらず、リニックは普通に大学に復帰することが出来た。
 それどころか、今まで起きたことはまるで無かったかのように扱われていた。
 正確に言えば、一週間程度旅行に行っていただけ、という風に記憶が書き替えられているような感じだった。
 窓から外を眺める。

「英雄譚……ねえ」

 あれからメアリーとは連絡を取り合っていない。彼女は、あれから英雄を探して旅をしているのだろうか。それすらも分からない。
 まあ、そんなものは僕には似合わない。
 僕には大学で研究をしていることがお似合いだ。
 と、リニックは踵を返したところで――。

「あ、」

 何かを思い出したリニックは、忘れようと思う風に呟いた。

「そういえば、彼女から錬金魔術のこと聞きそびれちゃったなあ……」

 窓から強い風が吹き込んできたので、書類が飛ばされないように、窓を閉じるリニックだった。

 

第一部 完

036

 リニックもまた、一人白の空間に居た。
 そして、目の前には浮かんでいる存在が一人。

「……やれやれ、ついに『剣』の封印を解いてしまったというわけか」
「あの、あなたは……?」
「僕? 僕はね……この世界、次元、存在全てを作った『神』、その代理人とでも言えば良いかな。もっとも、彼女は力を使いすぎてね。今は少しお休みさせているんだ」
「お休み? 神の代理人?」

 いったい全体、何を言っているのかさっぱり分からなかった。
 さらに、彼は話を続ける。

「僕の名前は、……いいや、名前すらも忘れてしまった。今や、地位で呼ばれることが殆どだからね。僕は影に隠れた神、その名も影神(えいしん)。一般的に神と揶揄されているガラムドはただの管理者さ。神からある一定の権利を委譲しただけに過ぎない。つまり、彼女も管理される立場であり、いつ排除されてもおかしくない。そして、その管理者の上には僕たち影神と真の神が居て、管理者の下には管理者を補佐する役割として眷属を置いた。それで世界はしっかりと回っていくはず、だった」
「だった?」
「人間はあまりにも愚かな行為を連続したのだよ。そうして一度、人間を滅ぼした。正確には、人間に選択の余地を与えた。滅びるか、種としての人類を残すために僅かな人間だけを残すか、と。結果は後者を選択した。当然と言えば、当然の結果だ」

 一息。

「一度、人間が地上から居なくなった世界は、人間以外の動物の楽園になった。動物は人間以上の知能を持たない。だから記憶エネルギーを使われることはない。まあ、そもそもあの時点で記憶エネルギーに気づく人間も居なかったわけだから、別に問題なかった訳だけれどね。でも、そこで我が儘を言い出した存在が居た」
「それは……ガラムド?」
「ご明察。ガラムドは再び人間を作ったのさ。人間を作れば、また平和な世界を送ることが出来る。実際は、管理に暇を弄んでいたんじゃあないかな。それについてはあまり考えないけれど、ともかく僕は肯定することにした。もし今度こそ人間がだめな世界を作ったらそのときは人間を滅ぼそうという判断の下、地球に自衛機能を齎した」
「それがメタモルフォーズだって言うんですか?」
「君は話が分かるようで助かるよ。そうだ、その通りだ。メタモルフォーズは地球の自衛機能を持っていた。つまり、地球に何かあったらメタモルフォーズが攻撃をする。そうして地球に自衛機能を持たせることにした、というわけさ」
「でも、偉大なる戦いが起きてしまった……」
「ああ、君たちはそう呼んでいるんだったね。僕にとってみれば愚かな争いだよ。人間は、とうとう記憶エネルギーの存在に気づいてしまった。まあ、メタモルフォーズも永遠に動ける訳では無い。記憶エネルギーの詰まったエキスを定期的に補充する必要があった。その為に生み出されたのが、知恵の木の実だ。それに、人間は気づいてしまった。気づいてしまったんだよ」

 さらに、影神は歌うように話を続ける。

「知恵の木の実から生み出されるエネルギーは、これまでのエネルギーとは違いクリーンで莫大なエネルギーを生み出すことが出来る、ということに人間は気づいてしまったんだ。これは不味いと思ったのが、僕たち神であり、管理者であるガラムドだ。直ぐに、自衛機能を働かせて人間の数を減らそうと試みた。しかしそれでも人間は争い――最終的に、どうなったかは君が良く知っていることだろう」
「もともと一つだった星が六つに分割した、ということですね……?」
「そうだ。そもそもあの星は分割されるべきではなかった。分割されると言うことは、記憶エネルギーの容量が減るということなのだから。それに、記憶エネルギーは最終的に減少傾向にあることは分かっていた。だから、記憶エネルギーを一度充填せねばならなかった。それが、君たちの知る『血の海』だ。あれは人間やその他動物を液体にすることで、一度記憶エネルギーにした。それは誰も悪いことじゃあない。悪いのは、ここに生まれた君たち自身だ」
「でも、それは……」
「人間はこの世界を滅ぼす存在だ。だからこそ、人間は一度滅ぼした。にも関わらず、この世界は滅び行く定めにある。何故か? それは人間がこの世界の記憶エネルギーを無駄に使い倒してきているからだ」
「違う! 人間は、変わろうとしている。絶対に、世界を滅ぼすなんてことはあり得ない」
「あり得ない? それは誰が言っていることだ。誰が保証することだ。誰が宣言することだ! この世界を滅ぼそうとしているのは、他ならない人間どもだ!」
「そうかもしれないな。確かにそれは間違っていないよ」

 影神の背後から、声が聞こえる。
 剣を構えていたのは、カラスミだった。
 カラスミはその剣を影神の首に当てていた。

「……何がしたい?」
「動くな。その時点でお前の首をかっきるぞ」
「……面白いことを考えるモノだね、人間のくせに」
「五月蠅い。ここは何処だ。我々は何のために連れてこられた。理由をはっきりと述べろ」
「と言われてもねえ……。君たちはあくまでも、リニック・フィナンスの『ついで』にやってきただけに過ぎないし」
「何だと?」
「そもそも、影神と人間が対等の立場に居る時点で間違っているということに、何故気づこうとしない?」

 その場から姿を消す影神。

「何処だ! 何処に隠れるつもりだ!」
『本来ならば……誰にも見せることは無いのだけれど、これは余興だ。君たちに見せて上げようじゃあないか。少々パーツが足りないけれど、致し方ないことだ。これについてはオール・アイに責任を取って貰うことにしよう』
「何をするつもりだっ」

 彼女の言葉を遮るように、目の前の白い壁が上にスライドしていく。
 そこには宇宙空間が広がっていた。そして、それぞれの星がちょうど見える状態になっている。
 その星がゆっくり、ゆっくりと動いているのが感じられた。

「……まさか、影神! お前はいったい……」
『剣の力を利用して、この世界をもう一度一つにする。その衝撃で今生きている動物は滅んでしまうかもしれないが、記憶エネルギーは充填されている。そこから生物を生み出すことなど造作も無い。さあ、止めたいと思うなら止めてみるが良い、リニック・フィナンス!』

 

035

 メアリーは驚いていた。
 何故?
 何故、そこに剣が揃ってしまったのか?
 何故?
 何故、剣の同調の中心にリニックがいるのか?

「これは……いったいどういうこと?」

 メアリーは今の状況が理解できなかった。

「総帥!」

 状況を整理するために追いついてきたライトニングとレイニー。
 そして、その状況を直ぐに理解できたのは、ライトニングのみ。

「……これは、同調が始まった合図なの」
「同調……ですって?」
「シルフェの剣は、オリジナルフォーズの力を封印するためのものだったの。つまり、百年前に復活したオリジナルフォーズは完全な力を持ち合わせてはいなかったの」
「どういうことっ。それってつまり、」
「未だ、オリジナルフォーズは完全に倒されていない、ということなの。……あなたたちが百年前に、別の次元に封印したそれは、全くの偽物。本物は、もう一つ上の次元に眠っている」

 ごごごごご、と地面が唸る音が聞こえる。
 リニックの頭上に、真っ黒い穴が出現する。

「何よ、これ……。いったいどういうこと……!」

 メアリーの言葉にライトニングは答えない。ライトニングは、それどころかリニックの身体にしがみついた。

「ライトニング! あなた、いったい……」
「あなたも知りたいでしょう、この世界の、オリジナルフォーズの真実を! そして、予言の勇者、フル・ヤタクミと出会いたいでしょう!」

 今までの口調とは違うそれは、別人かとも思わせた。
 しかし、違う。
 それは大いに間違っていた。
 そして今は――彼女の指示に従うしか無い。そう思って、メアリーもしがみつく。
 慌てて、レイニーもしがみつく。

「待ちなさい!」

 双方からカラスミとオール・アイがやってくる。
 何とか彼女たちを追い払いたいところだが、ここで手を離してしまうと二度とリニックに出会えない気がする――不思議とそう思った彼女たちはそのまましがみつくだけだった。

「カラスミ=ラハスティ! あなたもこの剣の真実を知りたいでしょう! ならば、しがみつきなさい、そのリニック・フィナンス……いいえ、剣の『器』に!」
「何ですって? あなたいったい何を」

 オール・アイは何とかリニックの足にしがみついた。

「いいえ、今は迷っている暇など無いわね!」

 カラスミも残っていた右足にしがみついて、それでも何とかリニックの身体は浮かび上がっていく。
 そして、リニックたちの身体は完全に消失した。


 ◇◇◇


 そこは白い部屋だった。
 そこは白い空間だった。
 そこは空と地上の境界が定かでは無い場所だった。
 そんな場所に、メアリーは一人置き去りにされていた。

「……そんな、リニックたちと一緒にやってきたはずなのに……。どうして?」

 リニックは居ない。
 ライトニングは居ない。
 レイニーは居ない。
 カラスミも、オール・アイも居ない。
 誰一人居ない世界。
 誰一人居ない空間。
 何も存在しない間。

「……でも、何処か懐かしい」

 そう、それはまるで母の腕の中で眠る赤子のような感覚。

「……でも、来たことが無い空間」

 ここはメアリーが来たことの無い空間だった。
 ゆっくりと、周囲の探索を開始する。
 歩き始め、少しすると、何かのオブジェが浮かび上がった。
 それはまるで十字架のような何かだった。遠くから見ると何だか分からなかったが、近づいていくとそれが何であるか定かになっていく。

「フル……?」

 それは、ある一人の人間が磔となった姿だった。
 フル・ヤタクミ。
 かつての予言の勇者であり、別の次元に封印したオリジナルフォーズごと消えてしまった――はずだった。
 そんな彼が、何故今ここに居るのだろうか。
 分からない。答えはまったく見えてこない。

「フル。フル!」

 フルに声をかけるメアリー。
 しかしフルは答えない。
 フルの肌に触れる。フルは冷たくなっていた。

「嘘……フルは死んでいる……」
「それは、あなたの心の世界に居るフル・ヤタクミを具現化した姿に過ぎない。とどのつまり、それはフル・ヤタクミであってフル・ヤタクミではない。意味が通ずるかしら?」
「あなたは……」

 白の世界から、地面から、ぬるりと生えてきたその存在は、白と赤を基調にした服を身にまとっていた。
 オール・アイに近いその存在は、しかして、メアリーには覚えがあった。

「あなたはご存じでしたね。お久しぶりです、メアリー・ホープキン?」
「ガラムド……。この世界の管理者にして、フルをこんな世界に閉じ込めた存在……」
「閉じ込めた、とは心外ですね。そもそもフル・ヤタクミは自ら望んでこの世界にやってきたのですよ。その意味を分かっていただきたいものですね」
「あなた……フルを閉じ込めておいて、良くそんなことが言えるわね……!」
「だから、それは心外だと言ったじゃあないですか。そもそもオリジナルフォーズを封印するためには、フル・ヤタクミという人柱が必要だった。だから彼には世界の為に犠牲になってもらった」
「世界が血の海になっても、フルが人柱になって問題ないと言えるの?!」
「……それは、ミスですよ。世界を正しく回していく上で、オール・アイが……リュージュがミスを犯した。この世界へとつなげる為に無理矢理世界を破壊しようとした。本来ならあれほどの出来事が起きたら上位存在が修正せねばならないのですが……」
「どういうこと?」
「上位存在があの世界を修正するために、人間やその他動物を一度『液体』に戻す必要があった。記憶エネルギーの媒体として地球が存在し、分割してアースと化した。しかしながら、記憶エネルギーの上限にも限界がある。限りがあるのですよ、幾ら惑星とはいえ、四十六億年分の記憶エネルギーを、人間は僅か二千年で使い切ろうとしていた。だから、管理者である私が処分を下さねばならなかった」
「処分……ですって?」
「世界を平穏にするために、記憶エネルギーの循環を強化した。あなたたちが『血の海』と名付けた現象ですよ。そもそも人間はあの世界においてウイルスと言っても過言では無かった。オリジナルフォーズはそのために世界から生み出された『白血球』と言ってもいいでしょう。そして人間であるあなたたちがウイルス。意味が分かりますか?」
「分からないわよ、いいや、分かってたまるものですかっ。それってつまり、」
「ええ。この世界はあなたたち人類を不要であると判断した。だから、オリジナルフォーズとメタモルフォーズは、世界を席巻するようになった。血の海によって記憶エネルギーは徐々に回復傾向にあります。けれども、未だ足りない。人間が使い果たしたエネルギーは、未だ足りないのです」
「記憶エネルギーを手に入れる……それって」
「記憶エネルギーを手に入れるために、私の部下が良く活躍してくれましたね。私の部下が誰であるかは、最早知っているでしょう。眷属という存在です。眷属という存在は、エネルギーを必要とする。あなたが黒い靄だと言っていたそれは……記憶エネルギーの塊。あなたも感じていたのでしょう、徐々に記憶が失われている、ということに」
「そんな……そんなことは……」

 メアリーは頭痛を感じる。

「そう。その頭痛こそが、記憶エネルギーの充填を感じたサインなのです。エネルギーには限りがある。人間はそれを使い切らなくてはならない。しかし、人間の身体とは不自由なことでそれを溜め込むことが出来ない。常に吐き出し続けなくてはならないのです。非常にもったいない。そうは思いませんか?」

 ガラムドは、メアリーの頭にそっと手を当てる。
 すると頭から黒い靄が消えていく――そんな感覚がした。

「これは、記憶を吸い取っていたということ。あなたは、祈祷師の血を引いている。だからエネルギータンクとしては有用だったのですよ。人間は記憶エネルギーを失うことで、記憶によって得られるストレスを解消出来る。つまり、人間が長生きする為には記憶エネルギーを失い、完全なる無となること。意味が分かりますか? 記憶エネルギーは、記憶というのは、人間にとって不要なのですよっ!」
「いや、いや、いやああああああああああああああああっ!!」

 白い空間に、メアリーの叫びが響き渡った。

 

034

「何故あいつらは、剣をそこまでしてほしがるんだ……?」
「はい?」
「いいや、お前達には言っていない。お前達は引き続きここの捜査を続けろ」

 そう言って、カラスミは地下トンネルの奥へと進んでいく。今は列車が通ることも無い、誰も通るはずが無いその通路を歩いて行く。
 それを見た警備隊の二人は、きょとんとした表情を浮かべていたが、彼女が遠ざかっていくのを見て、再び仕事に取りかかるのだった。
 カラスミは怒っていた。
 何故我が国の人間を犠牲にしてまで、その剣を狙っているのか。
 今回の事故が誰によるものか分からない。だが、剣の眠っている祠へ向かうにはこの地下トンネルが最適解であり、それはカラスミたちも把握していた。

「……だからこそ、彼奴らの行動が気になる。このまま行けば、まず確実に帝国とぶつかることになるだろう」

 では、どうすれば良いか?
 そこまで待機していれば良かった話だったのに、どうして表に出ることになったのか?
 その引き金となったのは、その鉄道事故と言えるだろう。列車爆発事故により多数の人間が亡くなった。そしてそれが祠に一番近い地下トンネルの入り口付近での事故となると、カラスミも動かなくてはならない。そういう結論に至ったわけだ。

「……彼奴らめ、世界をどうするつもりだ……?」

 それは、実際に聞いてみないと分からない。
 そして、それを突き止めなくてはならない。
 それが彼女の使命であり、軍と剣を任された彼女の仕事だった。


 ◇◇◇


「……それにしても、彼女に剣を任せて構わなかったのですか?」

 会議室。キャビアの隣に、一人の少年が座っていた。その少年はその場には似つかわしくない雰囲気を醸し出していたが、不思議と溶け込んでいた。

「うん! だって、一番『適性』があったのは彼女だったからね。けれど、一番の適性は残念ながら既にメアリー・ホープキンの手に落ちている。それは分かっているよね?」
「ええ。分かっておりますとも。……ですが、彼奴らに剣を手に入れられるのは時間の問題……」
「だから、それをどうにかするのが君たち軍の仕事でしょう? 僕の職業は?」
「……カトル帝国皇帝、アンチョビ・リーズガルド陛下にございます」

 そうそう、とアンチョビは言って、

「だから僕の言うことを素直に聞いて、彼らに盗まれる前に剣を手に入れる。そして、剣の使い手も手に入れる。それが君たちの一番の任務だって話は……キャビア将軍、あなたにしたはずだけれどなあ?」
「お、お仕置きですかっ」

 キャビアが慌てた表情を浮かべている。
 それをニヤニヤと見つめているアンチョビ。

「どうしようかなあ、取りあえず剣は今彼女が持ち合わせているんだよね。そんでもって、今はこの星にある祠に向かっている。けれど、今、祠には別の一派もきっと向かっているだろうね。となると、その祠には、持ち主は違うとはいえ、欠片が全て揃うということになる」
「……というと?」
「剣が真の力を得るチャンスだということだよ。それは誰にも分かっていない。分かっていたら、そもそも近づけることなどしないはずだからね」
「剣と、所有者たる格を持つ人間が居ることで自動的に剣の封印は解かれる、と……?」
「そうそう。人間のくせによく分かっているじゃあないか。つまりはそういうことだよ。この世界がどう傾こうとも僕の知ったことじゃあない。そもそも、帝国としてはあれを封印するに留めているのは、あれを破壊することが出来ないからだ。世界の管理者たるガラムドが何か力をかけているのは分かる。しかしそれを解除することは出来ない。所詮、僕たち眷属はガラムドより低い次元の存在だからね。そして、それよりも低い次元に君たち人間が存在しているわけだ」
「それならば……何故我々はそれを管理しなくてはならないのですか。破壊しなくとも、何処か永遠に消し去ることだって……。そうだ、宇宙に飛ばしてしまえば永遠にこの世界には戻ってこない! そういうことだって考えられたはずです」
「考えたさ。そして実際に実行された。でも、だめだった。結局、この世界にあれは必要だった。たとえどんな力を得ようともこの世界にはあの剣は必要だった。シルフェの剣、その完全体……オリジナルフォーズを完全に破壊できなかったのは、敵の魔術師が剣を六つに破壊し、プロテクトを行ったからだ。そしてそのプロテクトは、この二千年で、やっと解放される。まるで、来たるべき時を待っていたかのように」
「……陛下、何をおっしゃられているのか、さっぱり分からないのですが……」
「簡単なことだ」

 立ち上がり、アンチョビの話は続く。

「この世界を生かすも滅ぼすも、あの剣次第だということだよ」


 ◇◇◇


 一番最初に祠に到着したのは、誰だったか。
 答えは、オール・アイだった。

「ついに祠に到着しましたか……。ロマ、準備は良いですね?」
「大丈夫よ。……ところでここには何があるのよ?」
「剣ですよ。そして、試練を司る古い人間が居ますが、そんなことはどうだっていい。力でねじ伏せるだけに過ぎません」

 石の扉を開けると、そこにはミイラが眠っていた。
 そしてミイラが抱え込むように剣が置かれていた。

「これが剣ね……」
「ええ、それよりも先に、この『ミイラ』を破壊します」

 そして、オール・アイは右手を掲げる。
 するとミイラはまるで砂上の楼閣の如く、さらさらと崩れ去っていった。
 残された剣が、ごとり、と棺の中に落ちる。

「さあ、これで二つ目です。手に取って構いませんよ、ロマ」

 そう言った矢先――剣がふわりと浮かび始める。

「?!」

 ロマは驚いてその剣を取ろうとするが、

「いけません、ロマ。避けてください!」

 オール・アイの忠告空しく、ロマはそのまま剣に切り裂かれてしまった。
 そしてロマだった身体は水にその姿を変え、そこには小さな水たまりが出来ていた。
 剣は祠を抜け出し、一直線にどこかへと向かっていった。

「……不味いですね、まさか剣が既に五本揃っているということですか……!」

 流石のオール・アイもそこまでは想定出来なかったのだろう。
 となると、向かった先は容易に想像出来る。

「あの剣を使われては成らない。使って貰っては困るのですよっ!」

 そうしてオール・アイはロマのことを見ることも無く、そのまま走り去っていくのだった。

033

 そして、三日後。

「……ついにここまでやってきたわね……」

 地下鉄のトンネル、その入り口にメアリーとリニックが隠れていた。隠れている理由は単純明快。軍の兵士が地下へのトンネルに検問をかけているためだ。だから鉄道も一度停止して全員の個人情報を確認せねば進めることが出来ない。

「想像以上に、厳重体制で剣を隠しているのね……。何というか、これじゃあ、埒外よ。どうしようもない」
「でも、これから陽動をかけて……」
「ええ、だから生まれる隙はほんの一瞬でしょうね。それを利用して、」

 どがあああああああああああん!!!! と巨大な爆発音が聞こえた。
 その爆発音は何かを破裂させたような音で、恐らく何かを仕掛けていた爆弾が爆発したものだろう。
 そして、その爆弾は先程検問を通っていた列車からだと確認出来る。

「……何が起きたの……?」

 流石に予想外の行動が起きたので、メアリーは目をぱちくりさせていた。
 しかし、リニックは違う。
 そんなことを確認するよりも、行動あるのみという手に出たのだ。

「り、リニック!」
「行くなら体制が混乱している今です! 狙っているかどうかは分からないけれど……もしかしたらあの手口は、オール・アイの可能性だって有り得ますよね?」
「オール・アイが……。成程、面倒ごとを全て吹き飛ばしてしまえ、という戦法ね……。むちゃくちゃにも程がある戦法といえば、その通りかもしれないけれど、」
「そんなことを言っている暇があるなら、さっさと行きましょう!」
「わ、分かっているわよ!」

 そして、メアリーとリニックは爆炎立ちこめる列車爆発事故の現場へと向かうのだった。


 ◇◇◇


 そして、一足先にその現場を通過している人間が二人。

「ライラックがまさかこんな作戦を思いつくなんて思いもしなかったけれど、」
「でもおかげで先に進めましたね?」

 オール・アイの言葉に、そりゃあそうだけれど、と答えるロマ・イルファ。
 列車爆発事故の要因は、小型の水素爆弾だ。
 ロマ・イルファは水を生み出すことが出来る。その水を電気分解した後、炎をぶつける。それにより爆発的なエネルギーを生み出すことが出来る。それが水素爆弾の簡単なメカニズムだ。

「水素爆弾、ね……。随分と昔にもそんな戦法を利用した人間が居たような気がするけれど」
「何か言ったかしら、ロマ・イルファ?」
「いいや、何も。……あとは、どう進めば良いのかしら?」
「ええと……」

 オール・アイは目を瞑る。
 そうして持っていた杖を彼女の顔から少し離れた位置で一周回すと、目を開いた。

「分かりました。さ、先に進みましょう」
「一応確認だけれど、本当にそれで分かったの?」
「分かりましたよ? 確認します?」
「確認する方法がどうやってあるというのか、逆に教えて欲しいレベルなのだけれど」

 そうして、彼女たちは先に進む。
 祠へと向かう最短ルートを通って、彼女たちはさらに前へ、前へ。


 ◇◇◇


 ぱちり。電気がはじける音がトンネル内に響き渡る。
 燃え尽きた後の列車を実況見分するのは、警備隊の仕事だ。
 しかしながら、今日は訳が違う。
 何故だかその実況見分に、帝国のカラスミ=ラハスティ将軍が同行するということになった訳だ。

「なあ、どうしてカラスミ将軍がいるんだ?」
「知るかよ、そんなことよりさっさと実況見分終わらせちまおうぜ。見た感じ、ただの爆弾によるものっぽいしよ」
「そこの警備隊、今の話、少し聞かせてくれないかな」

 警備隊の二人の会話を、カラスミは聞き逃さなかった。
 カラスミの言葉に二人は即座に敬礼し、丁寧に情報を提供する。
 下手に変なことを言ってしまうと、その場で斬首ものだ――あくまでも噂の範囲だが。

「……成程。ということは、水を使った爆弾ということだな?」

 一通り話を聞き終えたところで、彼女はそう結論づけた。

「いえ、正確には水を構成する分子によるものが原因でして……」
「?」

 カラスミは首を傾げ、

「私は難しい話が苦手なんだ。要するに、水が原因で作られた爆弾なのだろう? そんな爆弾を開発可能な施設は? この星に存在するのか?」
「い、いえ……。確かにこの分子は水を構成する分子によるものですが……、流石にそれによる爆弾を作ることが出来るか、と言われると……」
「無理なのだな」
「は、はいっ」

 カラスミは踵を返す。とどのつまり、この爆弾は進みすぎた科学……或いは魔術かもしれない、によって開発されたものである、と。
 と、なると、答えはただ一つ。

「これを生み出したのは、オール・アイの一派か、或いはアンダーピース……。いずれにせよ、我が国に被害を齎すなど絶対に許せん」

 今回の列車事故では、何人もの人間が亡くなっている。
 それについては原因究明が急がれるばかりだし、犯人も捕らえなくては成らなかった。

「いずれにせよ、奴らは我ら帝国にやってくるはずだ」


 ――理由は単純明快。剣の欠片を三つこちらが所有しているからだ。


 だが、その剣がどういう意味を成しているのかは明らかになっていない。『偉大なる戦い』によって使われた剣であるということは明らかになっているし、歴史の教科書にも載っている程の常識だが、しかしながら今になってそれを使う意味がさっぱり分からない。
 それを使うことで、世界を変えてしまう程の力を得てしまうからか?
 それとも、それを使わなくては成らない程の脅威が出現してしまうのか?
 結論は考えても出てこない。それに、幾ら考えたところでそれが正しいかどうかははっきり分からないし、分かるはずが無い。だったらさっさとどちらかを捕らえて吐かせれば良いだけの話だ。それがどうして今に成って必要になったのか、その理由を。

032

「問題はその地下にどうやって入るか、ということ。きっと軍も策を張り巡らせているに違いない。……だとすれば、どうすればいいか?」
「普通に考えれば、二手に分かれるのがベストだろうな」

 言ったのはリニックだった。

「ええ、そう考えるのが普通でしょう。そこで、私たちは二手に分かれることにしたわ。私とリニックが地下にある祠に向かう。その扇動を、ライトニングとレイニー……あなたたちにお願いできるかしら?」
「出来るの。頑張るの」
「了解です!」
「ライトニングは祠に行かなくて良いのか?」
「剣に選ばれたのはあなたなのだから、必要なのはあなただけで十分よ」
「そんなもんなのか」
「そんなもんよ」

 メアリーはある場所を指さす。
 そこは、都市の中心部から少し離れた隧道だった。

「ここに地下トンネルの入り口がある。正確に言えば、地下鉄の入り口ね。ここから潜入して、隧道を経由して、地下の祠へ向かう。でも、地下への入り口は全て軍が警備しているでしょうね。このあたりをさらりと見た限りでも軍の人間がかなりの数居たし。けれど、意外と私たちには気づかれなかった」
「泳がされている可能性は?」
「無きにしも非ず、ね」

 可能性としては有り得る、ということか。
 リニックはそんなことを考えつつ、メアリーの話を聞いていた。
 メアリーの話は続く。

「……なので、とにかく二人には派手にやって欲しい訳よ。勿論、捕まるわけにはいかないわよ? 捕まってもいいぐらいにドンパチやらかして、捕まってしまっては元も子もないわけだし」
「それぐらい、分かりますよ。……じゃあ、決行日はいつにしますか?」
「早いほうが良いわね。でも、明日なんていうのは準備が出来ていないし、無理だと思う。だから、次の満月の日の夜に……でもしましょうか。次の満月っていつ?」
「三日後なの」

 ライトニングが即答する。

「じゃあ、それで行きましょう。三日後、私とリニックは地下のトンネルへ。ライトニングとレイニーは……好きに爆発なり何なりさせれば良い。ただし、善人を殺しちゃだめよ?」
「機能停止は?」
「許可します。必要に応じて」

 許可しちゃうのか、とリニックはそう思った。
 そして三日後、作戦の決行をするべく今日、僕たちは別れるのだった。


 ◇◇◇


 アントへのフライト中。
 ロマ・イルファとオール・アイは会話をしていた。

「次の満月はいつ?」
「次? ……ええと、確か三日後だったと記憶しているけれど」
「三日、ね。なら全然間に合う速度かしら」
「満月と何か関係性が?」
「シルフェの剣は月の力を使うと言われているわ。それに、魔力は満月に満ちている、とも言われているのよ。だから満月の日は一番剣と月が呼応しているタイミングと言ってもいいかしら。その意味が分かる?」
「……いいや、まったく分からないわね……。どういうことなの?」
「シルフェの剣は特殊な魔力を込められている。それが月と呼応するということ。月がアースやその他惑星に隠れてしまうと、その力は減少してしまう」
「じゃあ、満月のタイミングに行くのがベストなの?」
「まあ、そういうことになるわね」
「ふうん、成程ね。面白いことをよくまあ知っているわね。……私なんて、魔力の塊ではあるものの、そんなことまったく知らないのに」
「魔力の塊……そうね、あなたはそういう存在だったわね」
「メタモルフォーズと人間のハーフ……よくも人間は考えたものだと思うわよ」
「……恨んでいるかしら?」
「何を?」
「作られた命を、作られた人生を」
「……いいえ。今は、お兄様を救うために動いている。それはあまり考えないようにしているわ」
「じゃあ、やっぱり」
「でも、もし今度お兄様と私を使うようなら、たとえ創造主でも殺す」
「……、あなたたちもう自由よ、はっきり言って。問題はあなたが『お兄様』を助けたいために彼らをつきまとわせているだけ」
「問題でも? 私のことを『モノ』と扱った代償と思えば軽いものでしょ?」
「それも、そうなのかもしれないけれど」
『間もなく本機体は、アント国際空港に着陸します。……しかし、このまま進むと管制塔の指示を受けることになりますが、如何なさいますか』

 彼女たちの会話を切るように、コックピットに居るライラックの言葉が聞こえてくる。
 無論、会話は一方通行となっているので、ロマとオール・アイの会話が聞こえることは無い。

「……問題ない、とは言いがたいわね。上手く空港から離れることは出来る?」

 近くにあるマイクの電源をオンにして、オール・アイは言った。

『離れることは、出来なくは無いですね。けれど、何だか軍の戦闘機がたくさん飛び交っているような気がするんですよ。今のところ怪しまれていないようですけれど』
「……軍の戦闘機ですって? まさか、カトル帝国の連中、既に剣を集め終えたとでも……?」
「だとしたら、都合が良いじゃあない」

 オール・アイの独り言をロマが拾い上げる。

「今こちらに一本、メアリーが一本、帝国が三本持っている状態なら、ここで戦闘を始めてすべて奪い取ってしまえば良い。あとは『祭壇』へそれを持って行けば……」

 ロマの言葉を聞いて、オール・アイは何度も、何度も、頷いていた。

「うん……うん! 確かに、そうですね! それならばなんとかなりそうです!」
「じゃあ、それで行きましょうか」

 ロマは小さく笑みを浮かべた。
 決戦の時は、三日後。

 

031

 アント。
 機械文明になっているその場所は、カトル帝国の主要都市となっている。
 そして、アントにはカトル帝国の第一基地があり、そこには軍事の中心があると言われている。
 第八会議室。

「カラスミ将軍。君は剣を手に入れているという話は、本当かね?」

 目の前に座っている男とは、腐れ縁の仲だ。しかしながら、そこまで仲良くなく、寧ろ悪い方に入ると言ってもいい。
 キャビア=レークサイト。
 第一基地を管轄する将軍であり、彼はこのアントにある祠を管理している人間だ。
 そして、カトル軍のリーダーでもある彼は、各基地の将軍の上に立つ存在でもある。
 そんな人間に、嘘を吐いて上手く誤魔化すことは、そう簡単な話では無い。
 諦めた彼女は、深く溜息を吐いた後、答えをはっきりと告げることとした。

「……ええ。あなたの言うとおりですよ、私は剣を既に三つ手に入れています。しかしながら、カトルとトロワについては剣を手に入れていない……。それどころか、トロワに至っては星が消滅したという報告も上がっている」
「それは、君が『見逃した』という一味によるものでは無いのかね?」
「さあ、どうでしょう? それは聞いてみないとなんとも言えませんが」
「……聞いてみないと、なんとも言えない……ね」

 キャビアはそう言うと、伸びていた顎髭に触りつつも、

「しかしまあ、随分と嘗められたものではないかね、このカトル帝国が? アースの一組織に。アースはもう人間が滅びてもおかしくない、いつ人間の住める環境が狭まってもおかしくない状態にあるというのに、我々がアースに目を向ける必要は無い、と言われている。まあ、皇帝陛下が『母星への帰還』を命じているから致し方ない事ではあると思うがね」
「皇帝陛下を卑下しているのか?」
「まさか、そんなことをするはずがない。君と私の仲だろう?」
「そんな仲になった覚えは無い。これっぽっちもな」
「冷たいなあ、カラスミくん。……で、どうするつもりかね? 彼らは次にやってくるとしたら、このアントでは無いかね?」
「彼らがどれほど力を身につけたか、というところでしょうか。剣の力を身につけて未だ日が浅い。剣に振り回されるか、剣を使いこなすか。それについては、実際に剣を交えてみないとなんとも言えないこと」

 剣を構えるカラスミを見て、深い溜息を吐くキャビア。

「……何というか、相変わらず、戦闘狂と言ったところか。そろそろ男とくっつくつもりは無いのか」
「私が、か?」
「そうだ。お前が、だ」
「私はそんな柄ではないよ。お前だってそれは知っているだろう?」

 キャビアはそれを聞いてうんうんと頷く。

「それぐらいは知っているぞ。だが、昔から言うでは無いか。女は家庭に入るべきだ、と」
「それは昔の話だ。今は男だって女だって剣を振るい、国のために戦うのが一般論だ。世間もそう認めているでは無いか」
「そりゃあ、」

 キャビアはどこか遠くを眺めて、

「そうだが……」
「そういうわけで、私はこれからも任務を遂行する。……あれがあれば、帝国も力を発揮できる。そうだろう? 正確に言えば、『どのような力をも手に入れる事が出来る』だったか。陛下が何をお望みか分からないが、剣の力を真に使える人間が出現した。そして、それがアントにやってきてくれる。なんと良いことか。かつての人間が使っていた言葉に、『飛んで火に入る夏の虫』なんて言葉があるらしいが、まさにそのこととは思えないかね」
「まあ、今はこの世界に季節なんて概念は存在しないがね……」
「……二千年近く昔の話だったかしら、その戦いにより世界は崩れ、地軸のずれにより季節という概念は失われ……、結果的に、この世界はどうなってしまうのかしらね。とてもいびつな世界になってしまっているわけだけれど?」
「さあな。それを決めるのは俺たちじゃあない。もっと上の立場の人間だろうよ。或いは人間じゃあないかもしれない」
「そもそも私たちに決められる立場の話じゃあないってことね……」

 窓から外を眺めるカラスミ。

「あら、雨ね……」

 外は雨が降り出していた。
 それはまるで何かを報せるようにも感じられた――。


 ◇◇◇


 アント国際空港に到着したメアリーたちを待ち構えていたのは、土砂降りの雨だった。

「……最悪ね。まあ、雨雲を突っ切った時点で予想は出来ていたけれど」
「今日はどうするつもりなの?」

 メアリーの言葉にライトニングは尋ねる。
 メアリーは頭を掻いた後、ライトニングたちに答えた。

「え? ああ……ええと、取りあえず先に宿を取りましょう。もう疲れたわ……。一日休むとまでは行かなくとも、今日はここで一泊しましょう」

 国際空港には、たくさんの人間(無論人間以外の存在も居るのだが)が往来するためか、ホテルが併存している。だからそこを上手く利用してしまおうという考えなのだろう。
 問題は、そのホテルに空室が存在しているか、どうかなのだが――。


 ◇◇◇


「いやあ、なんとかなったね。運が良いことに、シングルとはいえ全員分の部屋が確保が出来るとは」
「シングルだからこそ、奇跡に近いわよ。だって、こんなに巨大な空港に一番近いホテルが人数分だけ空室があるなんて、奇跡よ。奇跡」

 取りあえず、今は作戦会議ということでメアリーの部屋に全員が集まっている状態だ。
 メアリーはベッドに地図を広げる。地図は先程ホテルのラウンジで購入したものらしい。

「ここが空港。そして、この都市の中心……その地下に祠はあるわ」
「何故それは確信だと言えるんですか?」
「そりゃあもう。ライトニングから聞き出したに決まっているじゃあない」
「ライトニングが……祠の管理に何か関わっている、と?」

 それを聞いたメアリーはきょとんとした表情で、リニックを見つめる。

「あら? 言っていなかったっけ?」
「……メアリーはいつも言うことが遅くなるの。言うよりも先に行動が出てしまうの。悪い癖なの」
「もう、そんなこと言わないでよ。……ええとね、このライトニングは、というかライトニングって名前じゃあないんだけど。……これについては言ってもいいよね?」

 こくこく、と頷くライトニング。
 というか言った後に事後承諾を得たところで問題ありありなのだが。

「彼女の名前……ライトニングじゃあないのよ、正確には、ね。ライトニングは、私が適当につけた名前。彼女は、かつての旧文明からこの時代を観測し続けて、そして今は私とともに行動をしているというだけに過ぎない。その名前は、キガクレノミコト。かつては『日本』という国で神の一柱を演じていたらしいが、今はその神の地位を捨て『眷属』にしたらしいけれど、ただまあ、眷属がどうのこうの、あなたにはあまり関係の無いことかしら?」
「いや……何というか、情報量が入りきらないというか……」
「人間というのは、弱っちい生き物なの」
「弱っちい……は余計過ぎないか? いや、まあ、何というか……凄いのは分かったんだけど……」
「キガクレノミコトはもう古い名前だから、あまり気にしないほうが良いの。今の私はライトニングという名前、それだけで良いの。……良いの?」
「なんでそこで再確認するのかしら、ライトニング? 別にあなたが良いと思えばそれで良いんじゃあない? だめならばだめで良いけれど、そしたら名前を元に戻せば良い。名前なんてものはあなたがあなたであることを決める数少ないピースの一つなのだから」
「……それじゃあ、ライトニングで良いの。今の私はそれが似合っているの」

 ライトニングはこくこくと頷く。

「……それならそれで良いわね。あなたがそう思っているなら、それで生きていくべきよ」

 メアリーはライトニングの頭を撫でながら、そう言った。
 ライトニングはそれが気持ちいいのか、笑みを浮かべながら、そちらを見つめていた。

「……さて、それじゃあ、作戦会議の仕切り直しと行くかしらね」

 そして、メアリーたちは作戦会議を(漸く)再開するに至るのだった。

 

030

 村長が手に取っていた剣を手に取ると、それを見てにやりと笑みを浮かべる。

「ついに、手に入れたわ。剣の『欠片』を」

 そうして、空間に円を描くと、そこに穴が生み出された。
 そこに剣を放り込むと、再び円を描く。すると穴は閉じ、そこには何も無くなった。

「……あとは、それを知る人間を全て殺すだけ、ね」

 ポケットから銀時計を取り出して、時間を確認する。

「あと一時間、余裕はあるわね」
「村長っ!」

 そのとき、声が聞こえた。
 開いていた祠の入り口を見ると、親衛隊の一人――ピローがそこに立っていたのだ。

「き、貴様! 村長に何をしたっ」
「何って、殺しただけよ。あなただって人が……いいえ、リザードマンが死ぬ瞬間なんて見たことがあるでしょう? 見たところ兵士のようだし」
「貴様ああああああああああああああああっ!!!!」
「……しかし、兵士に必要なのは力だけじゃあ無い」

 オール・アイが彼に手をかざす。すると、そこから鋭い針が無数に生み出され、彼の身体を貫いた。

「あがああああああああああああっ!!!!」
「余裕も必要なのよ、正面から突撃するなんて無謀もいいところ。……それぐらい分かっておきなさい、兵士ならばね」

 そして、オール・アイは血まみれになった祠を後にする。

「さあ、後は」


 ――その事実を知るリザードマンを皆殺しにするだけ。


 ◇◇◇


 それからは、早かった。
 村長の家に居る学者は全員殺害し、親衛隊も息の根を止めた。
 残りの住んでいる人間は殺害こそしなかったが、禍根を残さないために、ある手段を用いた。

「……ええと、先ずはこの星のマグマの流れをうまくコントロールして……」

 北東の小島に着陸する宇宙船を見上げながら、オール・アイは何かをしていた。

「オール・アイ? もう終わったのかしら」
「ええ、もう終わりましたよ。剣は後で出しても良いかしら」
「構わないわ」

 外に出てきたロマ・イルファとの会話をしつつ、何かを作っているオール・アイ。

「オール・アイ……いったい何を作っているのかしら?」
「斥力爆弾、とでも言えば良いでしょうか。簡単に言えば、電子と電子が突っぱね合う力を利用して、そのエネルギーを爆発に変える。簡単なものですが、設計図が無いと流石の私も作るのには時間がかかりますね……」
「ここに居る人間を、皆殺しにするということ?」
「人間というより、リザードマンと言えば良いでしょう。彼らには人権はありません。それに、剣を持って行かれたことを知られては困ります。帝国の領土ではないから、消すのは簡単です」
「だめよ、それは!」
「あなたが言っても無駄です。これはもう実現されたこと。……よし、これで完璧です」

 そうして、穴から何から落ちてきた。
 それは小さな球体だった。球体に時計がつけられたそれは、十五分のタイマーを指していた。

「……あとはこのスイッチを押すだけです。ライラック!」
『はい?』

 突然声をかけられたライラックはスピーカーを通して、オール・アイの言葉に答える。

「今から十五分後にこの惑星を爆破させます。良いですね、大急ぎで出発する準備をしなさい!」
『それならいつでも出来ますよ! エネルギーも充填完了済です!』

 オール・アイは頷くと、スイッチを躊躇いなく押した。

「さあ。急いで逃げましょう。もうこの星に未練はありません」

 オール・アイはロマを押し込むようにロケットに入る。
 そしてロケットは五分後には完全にトロワを離れていくのだった。


 ◇◇◇


「トロワが爆発した……ですって?」

 そして、そのアナウンスを宇宙船の中で知ったメアリーは、思わず崩れ落ちそうになった。

「メアリーさんっ」
「大丈夫、大丈夫よ、リニック。……それにしても、奴ら、そんな強攻策をとってくるなんて思いもしなかった。どうしましょう、きっと剣も手に入っていることでしょう」
「こちらにある剣と、あちらにある剣、そして残りは三つ……。どっちが先に手に入れるか、ですよね」
「決まっているわ、こちらが先に手に入れて、そしてその剣も出来ることなら手に入れたいけれど……」
「総帥、今来ました。この船はアント国際空港へ行き先を変更するようです」
「アント……って、機械文明の?」
「そうね。一番旧時代の色が濃く残っているとも言われている、アント」
「アントには知り合いもいないんですよね……。だからしらみつぶしに探すしか無いと思うのですが」

 レイニーの言葉に、メアリーは言った。

「そりゃあ、最初からしらみつぶしに探すつもりよ。……それに、こちらには強力な『眷属』が居る。……ええと、」
「ライトニング、なの」
「そう! ライトニングが居るでしょう?」

 今の動作が、少しだけおかしいと思ったのは、リニックだけだった。
 だが、問いかけるわけにも、指摘するわけにも、いかなかった。
 そこで彼女たちの良い雰囲気を崩すわけにも、いかなかった。

「それじゃあ、次の目的地は、アント。……アント国際空港にはどれくらいで到着するのかしら?」
「ああ、それなら――」

 レイニーの言葉をかき消すように、アナウンスが入ってくる。

『……皆様、このたびはご迷惑をおかけして申し訳ございません。トロワの大爆発により、空港への移動が出来なくなりました。その関係上、アント国際空港へ緊急着陸と致します。到着時間は今から五時間後になる見込みです。皆様には大変ご迷惑をおかけ致します』

 機械的なアナウンスを聞いたメアリーは頷く。

「あと五時間……。それまでにアントの剣が奪われていなければいいけれど」

 そうして、彼女たちの目的地はトロワからアントへと変更することになった。
 二つの剣はそれぞれの勢力によって一本ずつ奪われてしまった。
 残る『伝説の剣』は、三本。

 

 

 

第四章 終

029

「そう言って貰えると、助かるよ。学者は、嫌いじゃあないが、ちょいとばかしいけすかないやつも居ることだしな」
「……それは言わないでおいていただけると助かります。そして、それが誰であるかと言うこともあまり考えないでおきましょう」
「そうして貰えると助かる」

 そうして、リルーとピローの会話は終わった。

「……それで、僕たちはどうすれば良いのですか?」

 ラムスの言葉を聞いて、村長が何かを話そうとして、学者達に目を向ける。

「……残念ながら、今は何も分からない、というのが現状でな。手出しは出来ん、と言ったところだろうか。なので、君たちにはここで待機して貰いたい。何かあったときには直ぐに出撃出来るようにね」
「出撃……ですか。他の親衛隊は呼ばないのですね?」
「現状は、な。何せ未知数の存在だ。今は呼んでも良いかもしれないが、彼らにも家族がある。……これを言ってしまうと、非常に心苦しい話だが、」

 それを聞いたラムスは小さく咳払いする。

「別に良いじゃないですか。つまり、僕とピローは孤児で、誰も家族が居ないから最悪死んでも問題ない、って話ですよね」
「ラムス!」

 リルーが制しようとするところを、村長が手で制す。

「……間違ってはいない。それを否定しようとも思わない。だが、だからといって、君たちの命を無碍にするつもりもない。それは、分かってくれ」
「それは……理解しているつもりです」
「本当かね?」
「村長の前で、嘘を吐くようなタイプに見えますか?」

 言ったのはピローだった。

「ピロー……。まあ、君たちは仲が良かったからな、リルーもそうだったか?」
「ああ、はい。そうです」

 リルーが合間に入って、会話に参加する。

「……君たちは仲が良い。それを忘れてはならない。いや、忘れるというか、実際には、仲が良い友人を作っておくべきと言えば良いか……」
「何を言っているんですか、村長。こんな重要な時に」
「こんな重要な時だからだ、リルー」

 リルーの言葉に、村長はそう返す。
 村長はさらに話を続ける。

「我らリザードマンが短命の種族にある。長生きできても六十年が精一杯といったところだ。……私はね、もう五十七になる。はっきり言って、寿命を迎えてもおかしくない年齢なのだよ」
「村長、こんなときに何を……」

 バルダルスの言葉に、なおも村長は話を続ける。

「私はもう少し生きていけると思っていた、そんな確証は一切無いのにな。そして、仲が良かった友人はどんどん消えていった。文字通りの意味じゃあない、死んだということだ」

 淡々と、村長は話を続けていく。
 それに彼らはただ聞くことだけしか出来なかった。
 話を聞くことだけしか――選択肢か浮かばなかったのだ。

「……私は、長く生きすぎたのだろうか。そうは思っていなかった。だが、私は、こうも長くリザードマンとして生を受けるつもりは無かった。友人がどんどん居なくなり、後は私だけ? そんな世界には長く生きたくなかった」
「……村長、落ち着いてください。今、あなたが落ち着かねば誰が指揮官として役目を果たそうというのですか」
「もう少しだけ、話をさせてくれないか」

 バルダルスは、それ以上何も言えなかった。
 村長は名残惜しそうに、話を締めくくる。

「若人よ。今起きていることを何とか乗り越えて……それでも何度か様々な難題に直面するかもしれない。そのときは、どうか諦めずに今回のように力を合わせて欲しい。……ああ、言い直そう。別にリルーたちに向けて言っている訳じゃあない。今、ここに居るリザードマン、全員が対象だ。そうでなくては、何も始まらない。一人で出来ることなど、限られている。意味が分かるかね? 複数人なら、解ける問題もあるということだ。だから、絶対に諦めてはいけない。そのときこそ真価が問われるというものだ。その『友情』というものが、」
「はい。話はお終い」

 唐突に、話題が中断する。
 理由は彼の背後に立った、謎の生命体だった。
 それは最初、リザードマンかそれ以外の存在か判別はつけられなかった。だから、どんな言語を話しているかもラムスたちには分からなかった。
 言語を理解できたのは、学者のリザードマンだ。特にいち早く理解できたのは、リルーだった。

「アース語……、ということはアースの人間ですか……!」

 リルーの言葉に、笑みを浮かべる。
 それは、白と赤を基調とした布を重ねただけの単調な服に身を包んでいた。
 黒い長帽子を被っていたそれは、やがてけたけたと笑い出す。

「ああ、良かった。私たちの言語を理解できるほどの知能があるようで……、本当に良かった」
「む、村長に何をする気だ!」

 ピローは槍を構え、その白衣の存在に矛先を向ける。
 溜息を吐いて、やがて一回転すると、

「……これで、あなたたちにも聞こえるかしら? 聞こえる、というよりは理解できる言葉で話せていると思うのだけれど」

 流暢な言葉だった。
 アースにはそれくらいにこの星の言語が伝わっているのか、と学者が興味を示してしまう程に。
 しかし、それは――それを考えること自体が間違っていた。

「私の名前はオール・アイ。ちょいとこの星には野暮用でね。今落下してくると思う宇宙船に乗り込んでいたのだけれど、ちょいと暇になったものだから、先に乗り込むことにしたの。……野暮用、聞いて貰える?」

 首を抑え付けられている状態にある村長は、何度も小刻みに頷いた。
 それを見たオール・アイは笑みを浮かべると、

「そう言って貰えると助かるよ。楽に終わりそうだ。……私の望みはね、あるものを手に入れることなのよ」
「ある……もの、だと?」
「はい、茶々入れない」

 どこからか生み出した氷のナイフを村長の首筋に突き立てる。

「村長っ!」
「はいっ、動いちゃだめだよ。動いたらその場でこのリザードマン……村長だっけ? の首を掻っ捌きますからねえ」

 歌うように。
 子供が歌を歌うように、そう続けた。
 はっきり言って、狂っている。彼らはそう思ったことだろう。しかし忽然とやってきたその異星人に太刀打ちすることは愚か、触れることすら敵わないのは、彼らの科学力以前の問題であるということには、未だ気づいていない。

「……わ、分かった。聞こう、聞こうじゃあないか。その『野暮用』というのを。ただ、私たちがそれを叶えられるかどうか……」
「あら、十分叶えられるはずのことだけれど。別に『あなたたちの命が欲しい』なんて無茶なことを言っている訳じゃあないんだし?」

 ぞわり、とそこに居るリザードマン全員の鳥肌が立った。
 実際には鱗がついているから、鱗がついていない部分だけとはいえ、それでも寒気がしたことには変わりない。
 今、笑顔で彼女はなんと言った?
 私たちの命を欲しい、と言っている訳じゃあない?
 だとすれば、いったい何の目的で、彼女はここにやってきたのか?

「……私は、『剣』を求めてここにやってきた。剣は何処? 教えてくれる人が何処に居るのかしら」
「剣……だと? あれを取られてしまっては、我々は何も出来ない! あれは我々の始祖が大事に保管しているものだ!」
「そう。ああ、そういえばリザードマンの始祖ってずっとここに居続けたのよね。なんとまあ、窮屈なこと。海だらけの部分って、とても退屈だったろうに」

 一息。

「じゃあ、あなたがそこへ案内することは出来る? だって、あなた村長でしょう? いろんな人がそう言っているものね。そうじゃあないと嘘は吐かせないですよ?」

 ぐちゃぐちゃな言葉遣いだ、と村長は思っていた。
 まるで幾つもの人間の魂がその中に入っているような、そんな気持ち悪い感覚。
 何故そんな感覚が咄嗟に思いついたのか、ということは置いておくとして。

「……分かった。私が案内しよう」

 村長は、ゆっくりと息を吸って、やがてそう告げた。

「村長!」

 リルーの言葉に、村長は答えない。

「あなたたちのリーダーが寛大な性格でとても助かったわ。それじゃあ、案内してちょうだい。一応言っておくけれど、嘘の場所に案内するとか、闇討ちをするようなら……どうなることか、分かっているわね?」
「そんなことを出来るほどの余裕が、今の私たちには無い」

 そうして、村長とオール・アイのみで、祠へと移動することになった。
 祠の前に到着すると、村長はゆっくりと扉を開けた。

「ふうん、カトルと同じデザインなのね。やっぱり『ガラムド』が啓示で命令した通りの建物と言った感じかしら……」

 何かをぶつぶつと呟いているようにみえるが、そんなこと村長には関係なかった。
 今の彼は、どうやってこの状況から解放されるかどうか、そんなことを考え続けていた。
 そして、村長は一つのプランを考えついた。
 扉を開けると、彼は急いでその剣を手に取った。
 しかし、それよりも早く、オール・アイの構えていたナイフが彼の右手を切り落とした。

「あがああああああああああああっ!!??」

 自らの切り落とされた腕を見つめながら、腕がついていた場所を左手で押さえる。
 しかし、押さえたところで血はどんどん吹き出してくる。

「残念だ。非常に残念よ。……もし普通にしていたら、痛みを与えること無くそのままあの世へと送っていっただろうに。変な抵抗をするから」

 笑っていた。
 こんな状況であるにも関わらず、オール・アイは笑っていた。
 苦しみもがく状況を見つめて、ただただ笑っていた。

「貴様は……狂っている……!」

 あまりの痛さに、倒れ込む村長。しかしその目線は未だオール・アイを追っていた。
 オール・アイは告げる。

「狂っている? そりゃあ、そうでしょうね。人間の観点から、或いはリザードマンの観点から見ても、私は狂っているのかもしれない。けれど、私は人間じゃあない。世界を超越した力を持つ『眷属』。その意味が分かるかしら? 私は、神に近しい力を持っているということなのよ」
「……何だと……」

 村長は痛みを必死にこらえながらも、会話に参加する。
 しかし、徐々に痛みの方が勝り、そして血も出すぎたのか、意識が朦朧としてくる。
 オール・アイは笑みを浮かべ、村長の顔を見つめる。

「安心しなさい。直ぐにこの村のリザードマンすべてを送って上げるから。これはあなたが犯した罪の罰よ。……ま、私が剣を手に入れたことを誰にも知られたくないからやる、ただの隠蔽工作に過ぎないのだけれど」
「貴様……」
「だから、安心して、死になさい」

 そして。
 オール・アイの持っていたナイフは、リザードマンの心臓を的確に捉えた。

 

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