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第四章 ②

  • 2019/02/19 23:39

 そして、次の日。
 私たちは、再び白き女王と対面するために、山頂に辿り着いていた。
 念のため『ヤルダバオト』の首も持参した上で、だ。
 ちなみに今回はメンバーを増やすということはしなかった。それをすることで、白き女王の機嫌を損ねる可能性がある、と私が言ったためだ。
「……しかし、ほんとうに大丈夫なのか?」
「何が?」
「私たち四人で来て問題無いのか、という話だ」
 メディナの問いに、私はしっかりと頷いた。
「問題無いでしょう! だって、あの『白き女王』が私たちにアポイントメントを取ってくるのよ? これって普通に考えて有り得ない話だと思わない? まあ、戦闘は必要になるだろうけど。もしかしたら向こうが諦めてくれるかもしれないし!」
「諦めてくれる、って?」
「そりゃあ勿論、向こうが『拿捕』している人間の解放よ。それをしてくれなきゃ話にならない。勿論、やってくれるかどうかは相手の裁量によるだろうけど」
「絶対穏便に解決しないだろそれ……」
 

第四章 ①

  • 2019/02/18 22:55

 次の日。
 『アビス・ファースト』オンラインカウンター二階にあるカフェテラス。

「……先ずは全員集まったことに感謝を述べる必要があるかしらね」
「全員集まらないとでも思ったのか?」
「正直なところね」

 誰一人欠けがなかったのは有難いことだったが、これからの戦いで人数が減るとも限らない。ならばできる限り人員は確保しておきたいところだ。……だが、そうすると、白き女王がまた手を封じてくる危険性だって孕んでる。

「白き女王の障壁はどうなってるんだ?」
「なんとも言えないのが現状ね。破壊されてるままなのか、修復されてるのか」
「もし前者なら?」
「ラッキーと思って突入するしかないわね。それが敵の罠かどうかは別として」
「後者なら?」
「もう一度破壊するしかない。出来るかどうかは分からないけど」

 あのときは魔法使いが十人以上いて漸く破壊出来たのだ。今回、もし壁が修復されていたら簡単にそれを乗り越えることは出来ないだろう。

「……そこはもう、白き女王の気まぐれに頼むしかないわね」
「気まぐれ、ですか……」

 全員が落胆する。
 そう思うのも致し方無いと思う。
 でも、そう言い切るしかないというのが事実であり、それが問題であることは間違い無いだろう。

「……可能性の一つとして捉えて欲しいんだけど」
「はあ?」
「もしかしたら、白き女王はわざと『穴』を開けておいた可能性があるかもしれない」
「わざと? どうしてそんなことをするのよ」
「それは分からない、けど……。『白き女王』側からわざわざこちらに声をかけてきた時点で怪しいと気づくべきだったのかもしれない」
「何か、罠がある可能性がある、と?」

 メディナの問いに、私はゆっくりと頷いた。

「だとしたら、バカ正直に向かう必要ないんじゃない? こっちだってまた人員を集めて魔法障壁を破壊すれば良い。そして今度はそのポイントから『私たちだけ』侵入する」
「……それを破った人間が居たら?」
「そのときは、そのときね。彼らのミスと思えば良い」
 

 はっきりと、言い放つ。

 それ以上のない、完膚なきまでに決めつけられたその一言。

「……しかし、それで人が集まるものかしら?」
「『白き女王』側からアポイントメントを取ってるのに?」
「それはそれ。これはこれ。ほんとうに実現出来るかどうかも危うい状態なのに、それを信じるのがまたおかしい話だとは思わない? 別にバカだとは言わないけど」
「それ、バカと言ってるようなものよね?」
「あら? そうかしら」

 メディナと私の間に、火花がバチバチと散るような感覚があった。

「……おいおいおい! ここで喧嘩している場合じゃないって! 今は『白き女王』にどうやって攻撃を加えるか。それを考えるところじゃないのかよ!?」

 言ったのは、ゴードンだった。
 それを聞いて私たちはすっかり怒りも冷めて、彼の話を聞く羽目になった訳だが。

「……彼、随分と手綱がお上手ね。いつもこんな感覚なのかしら?」
「さて、どうでしょうね?」
「ひそひそ話していてもなんとなく内容は分かるんだよ! 良いからさっさと作戦会議を再開するぞ!! いずれにせよ、俺たちには時間がないってことぐらい理解して貰わないと困るんだよこちとら!!」

 

 

 白き女王と鬼の少女の通信。

『……ところで、いつ頃来るかなんてことは把握してるんですか?』

「私がそんなつまらないことをするとでも思ってるの? あんたは少し私の価値観を理解した方が良いと思うけど」
『……ああ、そうでしたね。あんたはギャンブルが好きでしたね』
「言い方!」
『何かミスでもありましたか? 私の発言は常に正しいことしか言わないようにセットされてますけど』
「……ほんと、あんたムカつくわね。なんつーか、一番年下だから何言っても良いと思ってんじゃねえぞ?」
『やーん☆ こわーい』
「てめえ、ほんとうに巫山戯るなよ、ぶっ殺すぞ?」

 そして、通信は一方的に打ち切られる。
 白き女王と、人間の戦いの火蓋は切って落とされる。
 その勝敗はどちらに軍配が上がるか、それは誰にも分からない。

 

 

行間 ②

  • 2019/02/17 16:50

 アビスクエストからログアウトして、私は直ぐに情報収集に当たった。
 何についてか? 答えは単純明快、『白き女王』が殺したと言った人間についてだ。
 もしそのような事故が起きているならば、各社が報じているはずだ。『オンラインMMORPGにおいて殺人事件が発生した』と。いや、そもそも殺人事件を起こしたのは会社のプログラムな訳で、もし逮捕するとするならば、会社のプログラマーやプロデューサーになるのだろうけど。
 しかし、そんな情報は全く出てこなかった。
 まるで情報統制でもしてるのではないか、と思ってしまうぐらいに。
 次に調べたのは、同じく話題になっているであろう、二十人もの人間が行方不明になっている事件だ。これは流石に見つかるだろうと踏んでいたのだが……見つからなかった。

「……どういうことだ? やはり、テクノポップ社が隠しているのか。となれば、テクノポップ社がそれを隠蔽出来る程の力を持っていて、尚且つ、【アビスロード】の行動は、テクノポップ社にとって容認出来ることだということ……」

 恐ろしくなってきた。
 恐怖心が浮かんできた。
 自らが遊んでたゲームは、最早ゲームでも何でもないのだ、と。
 犯罪者が犯罪をしても許される無法地帯ではないか、と。
 私は考える。きっとこの事件は警察に通報しても無駄だ。
 テクノポップ社が警察を利用してまで隠蔽している事実。それを警察に突き出したところで、『裏』の力によって揉み消されるのが常だろう。
 ならば、どうすれば良いか?
 アリス、考えてる場合か?
 アリス、願ってる場合か?
 答えは、直ぐ目の前にあるじゃないか。
 私と『白き女王』が唯一立ち向かうことの出来るフィールド。
 私がその事件に唯一立ち向かうことが出来る世界。

「やっぱり、『あのゲーム』でどうにかするしかない、か」

 私は決心する。
 今度こそ、白き女王を討伐する、と。
 白き女王を討伐して、少年を解放するのだ。
 そうしなければ、いいや、それ以外に道はない。

 

第三章 ⑮

  • 2019/02/16 22:05


  ⑭

 オンラインカウンターに戻ってきて。
 一言目に発したのは、ゴードンのこの台詞だった。
「……俺たち、何のためにヤルダバオトを倒したんだろうな」
「でも、倒したことによって『白き女王』は私たちの話に応じてくれることになった」
「応じてくれるだけじゃねえか。俺たちが求めていたのは、未だ解放されていない二十人もの人間(プレイヤー)を解放して貰うことじゃねえのか?」
「それはそうかもしれないけど……」
 でも、間違ってない。
 私たちにとって、やるべきこと、やらなくてはならないことは何か。
 それはただの任務(クエスト)達成ではない。もっと重要なことだったはずなのだ。
「白き女王の討伐、私たちに出来るでしょうか……」
「出来る、出来ないの問題じゃない。やるしかないんだ。しかも、俺たち四人で」
「どうして? もっと人を雇えば効率的に物事を進めることが出来るのに……」
「いや、きっと……白き女王は私たち以外の人間を連れてきたら、また『封印』をしてくるに違いない。犠牲者を増やす訳には、いかないのよ」
「それは……」
 レオンの思う気持ちも分かる。
 でも、これは出来ることなら、私たちだけで解決しなければならないこと。
 ほんとうならレオンすらも除外しておきたかったことなのだけど、「今更除外なんて言わないでください!」と言われてしまい、一緒に来て貰うことになってしまったのだ。
 そもそも、あの時点で白き女王に目をつけられてる。
 ならば、一緒に来ないと話にならないのは当然のことか。
「あんた、ほんとうならついてくる必要も無かったのよ?」
「何を今更。私も白き女王に目をつけられた人間ですよ。だったら最後まで付き合うのが道理です」
「……そう言って貰えると、ほんとうに有難いわね……」
「今更じゃないですか。貴方達と手を組んだときから、これは決まっていたことなのかもしれないですけれど」
「……というと?」
「私にも私なりの価値観があるということですよ」
「……そういうもんかね」
「そういうもんですよ」
 そうして、レオンと私の会話は終わった。
「……さて、となると後は『白き女王』討伐に向けた作戦会議ですけれど」
「もう疲れちゃったし、後は明日にしない?」
 私はヤルダバオト戦で大分精神を使っていた。
 だから窶れていたというか、疲れていたというか、とにかく今すぐ休みたかった。
「休みたい気持ちも分かりますけれど、今、苦しんでいる人の気持ちも考えたことがあるんですか!」
 メディナの言葉に、私は俯くことしか出来やしなかった。
 分かってる。分かってるんだ。
 けど、今はゆっくりと休ませてくれないか。
 休ませてくれるだけで良い。あとは命令ならばどんな命令でも受け入れようじゃないか。
「……休むのも仕事のうちだろ、休ませてやろうぜ」
 メディナの言葉を否定するように入ってきたのは、ゴードンだった。
「ちょっと、ゴードン!?」
「確かに俺たちは今日の戦いで疲れた。心も身体も、な。その状態で次の戦いの作戦会議を満足に出来る状態かと言われるとまた話は別だ。そうは思わないか?」
「それは……。じゃあ、あんたも疲れているって訳?」
「そりゃあ勿論。どんだけ俺の『盾』が役だったと思ってやがる」
「言うほど使ってないような気がするけど……」
「何だと?」
「まーまー、ここで喧嘩する話でもないでしょ? 私の言うとおり、休んだ方が良いんだって。後はそれから考えましょ。ね?」
 結局。
 私の鶴の一声で今日は休むこととなり、また明日作戦会議を立てるということに相成ったのだった。

  ⑮

「……ふんふふーん」
「上機嫌ですね、白き女王。それ程、人間にヤルダバオトが倒されたことが嬉しかったのですか」
「だってあいつ、私の言うこと一切聞いてくれなかったし! まあ、また復活するからそのときはそのときで服従させてあげるんだけど。一回ああいう目に遭わないと分からない人だって居るでしょ?」
「あれは人と呼ぶべきかどうか微妙な存在ですが」
「まーまー、そんなことはおいといて! 私が言いたいのはそんなことよりも無事に人間達が私への挑戦権を得た、ということなんだから」
「……ほんとうに戦うおつもりですか? もし何かあれば、『アビス・セカンド』に逃げ込んでも良いんですよ」
「戦争を仕向けたのは彼らの方よ。だったらあちらが納得するまで戦ってあげるのが、【アビスロード】の役割と言っても造作ない。そうでしょう?」
「それは……」
 否定しなかった。
 画面に映っている、鬼の少女は否定などしなかった。
「ま、今日は来ないだろうから後は明日の話ね。明日以降どうなるかほんとうに楽しみなんだから。もしあれだったらあなたもここまで来れば? 別に統治なんてしちゃいないんだから毎日暇なんでしょー?」
「それはそうかもしれませんが」
「ほらほら。だったら、やってきなさいな。私と人間の戦いを見られるなんて、珍しいことこの上ないんだから。ね? 分かったならさっさとやってきてね?」
「分かりました。では、明日から」
「そうね。それが一番良いかもね」
 そうして、二柱の会話は終了した。
 ヤルダバオトを倒した彼らに待ち構えるのは、【アビスロード】『白き女王』。
 彼らが勝つか、白き女王が勝つか。その答えは、神のみぞ知るといったところになるだろう。

第三章 完

 
 

 

第三章 ⑭

  • 2019/02/15 21:13

「やるな……! 流石に、私の首を狙うだけはあるということか!!」
「褒めて貰えて光栄、とでも思えば良いのかな?」
「だが、それだけで倒せると思ったら大間違いだ……!」
 何だろう。力が湧き出てくる感覚がある!
 勿論、私の方じゃなくて、ヤルダバオトの方からだけど!
 それをゴードンも分かってたらしく、声を上げ始める。
「おい! 何だか怒らせちまったんじゃねえか、これって!!」
「分からない。分からない、けど……」
「けど、なんだよ!」
「……ヤルダバオトは倒せない敵ではない、と思う!」
「思う、思うって……。言っているだけじゃねえか! そんなこと出来ると思っているのかよ!」
「五月蠅いわね、さっきから。あーだこーだと! だったらあんたは出来るのか! 私が出来ないと何も出来ないじゃないの、特にレベル的な意味で!」
「さっきから聞いていればお前は……! いい加減にしろよ!」
「仲間割れしてる場合じゃないわよ!! 今は、ヤルダバオト討伐に集中しなさい!!」
 メディナの言葉に、私たちは身体を強張らせた。
 確かに、今はそんなことをしてる場合じゃない。
 そんなことをしてる暇は、一切存在しない。
「どうした、攻撃の手を緩めたか>enter」
 ヤルダバオトの言葉が、不意におかしくなった。
 まるでノイズが混じったかのような、そんな感覚。
「レベルカンストだかどうだか知らないが、それで攻撃の手を緩めるとは笑わせる。>enterそれに、未だ戦いは終わっていないのだから>enter」
「戦いは終わってない、だと? それぐらい理解してるさ。だが、お前はもう終わってるように聞こえるがな。感じないか、言語機能に異常を来していることを!」
「ははは。>enterそれぐらい理解しているとも。>enterだが、それがどうしたというのかね?>enter>spaceそれを知ったところで何が分かるというのか?>enter>space分からないだろう?>enter>space分かるはずがないだろう?>enter>space分からないならば、口を出すな、若造が」
 言語機能に異常を来していてもなお、戦いをし続けるというのか。
 何というか、哀れな存在だ。
 それならば、さっさと戦いを終わらせてしまえば良いのだけど。
「……どうした、どうした?>enter>space何を疑問に抱いているのだ>question>enter>space未だ、戦いは終わっていないぞ>enter」
「戦いは終わってない。それはそうかもしれないわね。でも、あんた、もうお終いよ。言語機能に異常を来してもなお戦いをし続けるなんて間違ってる」
「間違ってる、だと>question>enter>space何を言い出すかと思えば、そんなことか>period>enterそんなこと、理解しているとも>enter」
「なら、あんたはどうすれば良いのか分かってないだけのただのバカよ。若造と言っているかもしれないけどね、それで済めば苦労しない。あんたはさっき左腕を部位破壊された時点で終わってるのよ。未だ五本の腕が動くかもしれないけどね」
「そうだ>period>enter私には未だ五本の腕が残っている>exclamation>enter>space腕が一本なくなったから何だというのだ>exclamation>enter>space私は、未だ終わっていない>period>enter終わっていないんだ……>exclamation>enter」
「いいや、お終いよ。終わり」
 私は剣を構える。
 いつまでも終わりを認めようとしない、その神に。
 終わりを認めようとしない、愚かな神に最後の鉄槌を捧げるために。
 私は、一瞬の弱点(ウィークポイント)を見逃しはしなかった。
「終わりよ、これで」
 刹那、私はヤルダバオトの身体を切り刻むように斬撃(ざんげき)を加えた。ヤルダバオトの背後に回っていたことに気づきもしないだろう。ヤルダバオトは、今もなお立っている。だが、
「ぬ、ぬおおお……>period>enter私は、私は負けない>period>enter負ける筈がないんだ……>exclamation>enter」
「お終いよ、あなたの負け」
 私の言葉が言い終わると同時に。
 ヤルダバオトの首が右にスライドしてく。
 私はそれをじっと見つめてた。
 そうして、首が落ちたところで私はそれを受け取った。
「……これで、お終いって言ったでしょ、ヤルダバオト」
「やったな、アリス! これで後は、『白き女王』に首を差し出せば問題無い」
『と思っていたのかしら?』
 声が聞こえた。
 振り返ると、そこには、白いワンピース姿の少女が浮いてた。
 私は直ぐに確信する。これは遠隔で情報だけ送信してるだけに過ぎないのだ、と。
 そうして、彼女は話を始める。
『先ずは、ヤルダバオト討伐おめでとうございます。と言えば良いでしょうか。貴方達がほんとうにヤルダバオトを倒すことが出来るとは思ってもみませんでしたけれど』
「何を!」
「俺たちにだって出来ることはあるんだぞ!」
「ってか私、必要でした?」
 最後のレオンの言葉には突っ込まないでおく。
『ヤルダバオトの首を持ってくれば、先ずは「私に挑戦するチャンス」を与えることになるでしょう』
「何だと……?」
『言っていませんでしたか?』
 にっこりと、白き女王は微笑む。
『ヤルダバオトを倒しただけで、彼らを解放するほど私も甘くはありませんよ?』
  

 

第三章 ⑬

  • 2019/02/14 23:53

「そもそも人間は、神に頭(こうべ)を垂れるだけの存在に過ぎなかったではないか。それを突然、何だ? 私を邪神などと言って、討伐するようになった。それは間違いではないか? 人間に、たかだか木よりも小さい、獣よりも小さい存在が勝てるとでも思っているのか? 否、否、断じて否だ。答えは否としか言い様がない。そんなことが有り得る訳がない。神として、私が負けるはずがない」
「でも、私たちは勝たないといけないのよ。だから、その首貰い受けるわよ。ヤルダバオト」
「……ほう、大方『白き女王』にでも言われたか? 彼奴にとって、私は目の上の瘤(こぶ)。そう思うのは致し方無いのかもしれないがのう」
「……分かってるなら、さっさとやられてくれると有難いのだけど。どうせデータに過ぎないんだから、死生観なんて存在しないはずでしょう?」
「でも、お前達には存在しているはずだ。死生観が。生きること、そして死んでいくことが」
 それは、まるで。
 AIのくせに、外の世界を認識しているような言い回しだった。
 邪神ヤルダバオトは【アビスロード】と比べれば、一つグレードの下がった存在である。しかしながら、形態は変わらないただのAIだ。AIに出来ること、AIに出来ないことをここで羅列する必要性は皆無だと思っているが、簡単に言ってしまえば、AIには外の世界を認識することが出来ない、ということが考えられる。
 例えば、私たち人間が暮らしている世界があったとして、その世界に神の居る外の世界があるとしても、それを認識出来る人間は居るだろうか? という話だ。もし居るとしたら、その人間は変わり者か何かだと思われてしまうことだろう。
「……どうした、人間。怖じ気づいたか?」
「そんなこと……!」
 ある訳ない、と言いたかった。
 だが、確かに、私の身体は感じていた。
 こいつは強い、と。
「何を考えている、アリス! 今は、あいつを倒すことだけを考えるんだろうが!」
 言ったのはゴードンだった。
「そ、そんなこと、言われなくても分かってるわよ!!」
 分かってる。
 分かってるけど。
 その強さは、じんじんと感じてくる。
「……さあ、行くぞ。人間!」
 轟!! と叫び声が上がった。
 ヤルダバオトと人間の決戦の幕が、切って下ろされるのだった。

   ◇◇◇

 ヤルダバオトの右腕が、ゴードンに襲いかかる。
 しかしゴードンの盾がそれを封じた。そしてその隙を狙うように、メディナが太刀を横腹に当てる。
 だが、それだけでは攻撃力が足りなかったのか、にっ、と笑みを浮かべるばかりだった。
「……なっ」
「避けろ、メディナ!! こいつは俺たちのレベルからすれば若干……いや、大分格上だ!!」
 メディナはそれを思い出し、急いでゴードンの居る場所まで後ずさる。
 ゴードンの横まで到着して、メディナは肩で息をしつつ一口。
「助かったぞ、ゴードン。そういえばそうだったよ、こいつは私たちにとっては格上だということを!」
「そうだ。だから、ここで攻撃が適うのは、」
「うりゃあああああああ!」
 ゴードンの頭を土台にして、そのままふわりと浮かび上がる。
 剣士の上位ジョブ、【剣聖女】アリスがヤルダバオトの頭めがけて飛びかかった。
 しかし、それを左腕で制するヤルダバオト。
「何っ……!」
「そう簡単にいくと思っているなよ、人間!」
「か、固い……! 剣が通らない……だと! バカな、ダメージは確実に通っているはずなのに!!」
「ああ、そうさな。ダメージ自体は確実に通っているとも。だがな、私と君たちとは体躯の大きさが違う。魔力の保有量が違う。戦術の幅が違う。君たちが戦ってきた下等の【アビスロード】や、雑魚モンスターとは違うのだよ」
「ぬぬぬ……!」
 だが、それでも諦めない。
 諦める訳にはいかないんだ!
 私は力を込めて、何とか傷がつかないか、何とか左腕でも切り落とせないかと力を込めた。
 そして、その瞬間は訪れる。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 ヤルダバオトに生えていた左腕。その一本を部位破壊した。
 破壊されたものはデータ化し、インベントリに自動的に採集結果がウインドウに表示される。
「よしっ! 部位破壊!」
 私はゴードンの元まで戻り、ガッツポーズをする。
「お前、蹴るなら蹴るって最初から言っとけよ……」
「言ったところで許可して貰えるかどうか謎だったから言わなかった。それだけの話よ」
「そりゃ、そうかもしれないがな……」
 話はほどほどに。
 左腕を破壊されたヤルダバオトは苦しみ、悶えながら、私たちを睨み付けていた。
「ぐおおおおお、ぐおおおおお。に、人間め…………。まさか、私の左腕を一発で破壊することが出来るとは……」
「伊達にレベルカンスト勢を名乗ってないわよ?」
「いや、それ通じるのか……?」
 邪神ヤルダバオトに、レベルカンスト勢なんてこと言って知ったこっちゃないかもしれないけどね!
  

第三章 ⑫

  • 2019/02/13 23:08


  ⑫

 次の日。
 武器屋へ向かうと、人数分の『隠れ蓑の装備』が用意されてた。おかげさまで漸くヤルダバオトに挑むことが出来る。実際に倒せるかどうかは分からないけど、でも、倒さないと先に進めない。
「……なあ、あんたら。その装備、何に使うつもりなんだい?」
 帰り際、武器屋の男からそう訊ねられたので、私はこう答えた。
「……神を倒しに行くのよ」
 それは間違いじゃない。正しいことだ。でも出来ることなら隠しておいた方が良かったのかもしれない。NPCかPCかどうか分からない以上、あまり事実を漏洩しない方が良いのだろうから。
 でも、私ははっきりと言い放った。
 隠し事をしても無駄だと分かってるから。
 白き女王が私たちのために何か模索してるっていうなら、こっちだってやってやろうじゃないの。
 策はない、訳ではない。
 どのようにしていけばいいか、考えてない訳でもない。
 私にとって、皆にとって、最善の選択をすることが大事だということ。
 それが一番優しいことであるから、それが分かってるから。
「……どうかしましたか、アリスさん」
 私は考え込んでたのか、立ち止まってたらしく、それをレオンに窘(たしな)められた。
 私は一瞬考え込んでしまったが、直ぐに笑顔を取り戻す。
「ううん、何でもないわ」
 それを伝えることは、今はしない方が良いだろう。
 それを話すことは、今はやらない方が良いだろう。
 それくらい、私にも分かってることだから。
 それぐらい、私にだって理解できてることだから。

  ⑬

 ロギ族の村に辿り着くまでに、私たちは『隠れ蓑の装備』に着替えた。草の匂いが少々鼻につくが、カモフラージュのためには致し方無いことだ。
 そうして私たちはロギ族の村に入る。……しかし、ただ入るだけでは見つかる可能性が高い。
 そこで、ロギ族の村が森林に囲まれてることを利用して、森林から経由して『祠』へ向かおうという話になった訳だ。実際問題、その方が私たちにとっても一番やりやすい方法だろうと思ったし、そういう推測に至るのは当然の事実でもあった。
「……今回ばかりは見つからないことを祈るしかないけど、ね」
「見つかりませんよ。……この『隠れ蓑の装備』はそういう物のためにある装備なんですから」
 そうだろうか。
 正直なところ、まだ使ったことがないから、この装備を信用してない節がある。
 ほんとうにこの装備だけでロギ族の人間から逃れることが出来るのだろうか?
 いや、逃れるというと何か私たちが悪いことをしたみたいに見えるけど!
「……どうした? まさか怯えているのか、お前のようなレベルカンスト勢が?」
「何を言いたいの? そんなこと有る訳ないじゃない」
 ゴードンの言葉に、私は速攻で返事をする。
 何というかこいつのキャラは憎めないが、時たまに面倒な物言いをしてくることがある。
 別に悪いとは思ってないのだけど、何というか、相手が嫌だと思えるようなことをしてくること自体が問題なのよね。普通なら、そりゃあ、女性の友人なんていないわよね、なんて言えるのだけど、こいつには何故だかメディナという人間(プレイヤー)がついて回ってる。果たして彼女とはどういう関係なのかしらね? リアルのことを詮索するのはタブーと言われてるけど。
「……まあ、あまりここで話をしたところで何かが進む訳でもあるまい。とにかく、今は前に突き進むだけだ」
「それ、何度言ったか忘れていないかしら?」
 メディナの言葉が、棘のように痛々しく突き刺さる。
 しかしながら、それは真実だ。紛れもない事実である。
 ならば今は前に突き進むしかない。そう、あるべきなのだ。
「何とか祠のところまでやってきたわね」
 意外にも。
 というか、それが想定されていた性能なのだろうけど。
『隠れ蓑の装備』は私たちを祠のある場所まで連れて行ってくれた。祠の前には誰も居ない。行くならば今しかないだろう。
 そう思って私たちは祠の中へと潜入する。
 ヤルダバオトが居るであろう、祠の奥底へと。

   ◇◇◇

 祠の奥地では、一人の人間が眠りに就いてた。
 いや、正確には。人間というよりも獣と言った方が近しいかもしれない。その獣は腕が六本も生えており、時折髪や肌をぽりぽりと掻いていた。胡座をかいて眠っているその様は、さながら瞑想をしてるようにも見える。
「……これが、ヤルダバオト?」
「ええ。確かに、『彼』がヤルダバオトです。間違いありません」
 一度戦いを経験してるレオンが言うならば、間違い無いだろう。
「それなら、眠ってる今のうちに攻撃を仕掛けた方が……」
 良いじゃない、と言いかけた、そのときだった。
「何者だ。私に攻撃を仕掛けようとしている者は」
 声が、聞こえた。
 その声は、低く厳かで荘厳な雰囲気を放っていた。
 その声を聞いて、私はそれが何者の声なのかを特定する。
「ヤルダバオト……ね? 『邪神』と言われてるあなたを討伐しに来たわ」
「はっはっは。私を討伐しに来たか。驕るのも大概にしろよ、人間」
 ヤルダバオトはゆっくりと、目を開けた。
  

 

第三章 ⑪

  • 2019/02/13 05:53

「それは分かってるけど……」
「分かっている? ほんとうに、分かっているんですか?」
「うう……。そう言われると自信無くすけど。でも、【アビスロード】がどういう存在かってことぐらいは私も理解してるつもり」
「そりゃあ、レベルカンスト勢だからな。一度や二度は、【アビスロード】撃退イベントに出会(でくわ)したことはあるやもしれん」
 何も、【アビスロード】は珍しい存在ではない。
 確かに『白き女王』のように強い存在も居れば、何十人の人間(プレイヤー)によってあっさり撃退されてしまう【アビスロード】も居る。彼らの中に等級があるのかは定かではないが、あるとするならば『白き女王』は圧倒的高位に立つ存在なのだろう。
 そして、【アビスロード】は弱い存在かと言われればそうではない。仮に百人の人間が挑戦したとして、実際に倒した時には九十五人に減ってることだって、よくある話なのだ。
 とどのつまり、油断すればやられる、というだけのこと。
 ただそれだけのことでしかないのだが、それだけでも【アビスロード】が脅威であるということには間違い無い。
「【アビスロード】が、どれだけ強い存在かは私だって知っています。ですが、実際に【アビスロード】と戦ったことはありません。私は未だ、地道に任務(クエスト)を重ねて何とかここまでやってきた存在にしか過ぎないんです。矮小(わいしよう)な存在ですよ、私は」
「そんな……。自分を卑下することはないでしょう。あなただってレベルが100を超えてる。『アビスクエスト』の中では立派な上位ジョブを持ってるじゃない」
「……レベルカンスト勢のあなたには分からないと思いますよ、きっと。永遠に」
「……じゃあ、分かるようになるように、私が努力しないといけないね」
「何をいきなり、突然」
「だってそうでしょう? 私はレベルカンスト勢。あなたはレベル100『そこそこ』の人間に過ぎない。そして、私は貴方よりも数多くの修羅場を潜ってきたこともまた事実。そうある中で、貴方のこと、チームメイトである貴方のことを理解していかないと、先に進まない。そうは思わない?」
「先に、進まない、ですか……。何だか、上から見ている物言いにも聞こえますが」
「あっ!! ゴメン、もし何か悪い風に聞こえたんだったら謝る!!」
「……良いですよ、別に」
 彼女は、鼻で笑って答える。
「……それに、今はそんなこと話している場合じゃありませんから。ギザギザの葉を集めること、それが一番大事なこと。そうでしょう?」
「そうだった! そうだね」
 私は、笑みを浮かべて彼女の言葉に答える。
 それは優しさを込めたつもりだったのだけど。
 彼女は、それに気づいてくれたかな?
「……よし。それじゃ、捜索の再開といこうか」
 そう始まりの合図をとったのは、ゴードンだった。
 何というか、レベルが低いくせに、彼には助けられるところが多い。
 この戦いが終わったら、ご飯を奢ってやっても……。
「今、何か壮大なフラグを立てようとしていないか?」
「え? 何のこと?」
「答えないならそれはそれで構わないが……。とにかく、『隠れ蓑の装備』を作って貰うためにも、ギザギザの葉を見つけなくてはならない。そのために俺たちは今ここにいるのだから。……ところでメディナの姿が見えないんだが、何処に行った?」
「ここにいるよ」
「うわっ!? 突然声を出すなよ驚くだろ!!」
「探しもしないで話ばかり進めてたあんたたちとは違って、私は一人でギザギザの葉を探してたの。ほら、これ」
 見ると、メディナの手には何かが握られていた。
 私の身体ぐらいの大きさの巨大な葉っぱ。その葉っぱには特徴的なギザギザ模様が描かれており――。
「って、それ、ギザギザの葉……!?」
「せーかーい! さっき、ギザギザの葉の群生地を見つけたの。これで人数分揃うと思うんだけど」
「でかしたな、メディナ! 大手柄だ!」
「えっへへー。後でジュース奢りな」
「おっしゃこないだの件と合計して二本だな分かった!!」
 そんなやりとりを見つつ。
「とにかく! ギザギザの葉の群生地を見つけたというのはほんとうなの!?」
「……え、ええ。ほんとうよ。この場所ばかりを探してたから盲点だったわ。この場所から少し行ったところに、ギザギザの葉の群生地があったのよ」
「急いで人数分確保しましょう。案内してください、メディナさん」
「わ、分かったから、慌てさせないで……」
 そういう訳で。
 メディナを先頭にして、私たちはギザギザの葉の群生地へと足を運ぶのだった。

   ◇◇◇

 夕方。武器屋に到着した私たちはギザギザの葉を納品した。
 店員は私たちの様子を見て少々驚いてるように見えた。……まさか、彼はギザギザの葉がないことを知ってたのだろうか?
 それはそれとして。私たちは大急ぎで『ヤルダバオト』を討伐したかったので特急料金でお願いすることにした。少々値は張るが、白き女王を討伐したらそれでも充分おつりが出る程のお金が手に入るので申し分ない。
「……それじゃあ、よろしくお願いいたしますね」
 そう言って。
 私たちは武器屋を後にするのだった。 


第三章 ⑩

  • 2019/02/12 22:55

「確証は持てないけれどね。でも、やっぱり、そこまで来たらその可能性が充分に有り得る話じゃないかな」
「でも、それだったらテクノポップ社は訴えられるんじゃないの? 例えば、【アビスロード】の暴走について」
「それはそうかもしれないけれど……。もしかしたら、警察とグルなんじゃないか?」
「そんなこと、考えられる訳が、」
「でも、確実に考えられる可能性は、それしか有り得ない」
 ゴードンは言った。
 はっきりと言い放った。
 確かにそう考えるのは自然かもしれない。そして、その考えに至るのも半ば当然のことなのかもしれない。そして、その言葉を紡いだことも彼にとっては暴論になっていたのかもしれない。暴論というよりかは、彼自身の『危うさ』に触れるものがあったのかもしれない。
 何故そう思うのか。
 答えは単純明快。『アビスクエスト』はテクノポップ社が運営しているゲームであるということは周知の事実だ。そして、『アビスクエスト』をプレイしてるということは、テクノポップ社の何らかのフィルターが通っているのは確かだろう。
 とどのつまり、『アビスクエスト』はテクノポップ社によって監視されている世界だ、ということ。
 それが分かっているならば、変な言葉なんてメッセージアプリ内部ですら言い出すことが出来やしない。いや、やろうと思えばその事実を歪曲させることだって出来るんだから。
「……でも、テクノポップ社がやっていないというなら、他に誰が?」
 ゴードンはさらに追い打ちをかけていく。
 確かに、その通りだ。
 テクノポップ社がこのゲームを開発した。言うならば、『神』だ。その神がしていないこと――それはどういうことを意味しているのか。
「或いは、プログラムが自我を持った……とか」
「そんなことが? ほんとうに有り得るとでも?」
「可能性は否定出来ない。技術は常に進歩し続けているのだから。特にAI技術が発達している昨今なら、不可能ではない出来事だろう?」
 それは、そうなのだろうか。私はあんまり詳しくないから分からないのだけど。
「……とにかく、ギザギザの葉を、データテーブルごとなくしちまったんだったら、そいつは悪い出来事だ。だって、『隠れ蓑の装備』を永遠に手に入れることが出来ないんだから。だが、もしそうだとするならば、それを【アビスロード】が仕向けるだろうか?」
「……【アビスロード】は今回の『事件』には無関係、と言いたいの?」
 敢えて、私は『事件』と言った。
 それが事件と言える規模なのかは分からなかったけど。
 私にとっては紛れもない『事件』であることは間違い無かった。
 ゴードンの話は続く。
「……とにかく、問題としては、ギザギザの葉が見つからないこと。これは重要な問題だ。これが見つからない限り、俺たちはあの武器屋に戻ることが出来ないんだからな」
「それはあくまでも『可能性の問題』では無くて?」
 言ったのは、メディナだ。
 確かにその通りかもしれない。
 でも私たちにとって重要な問題であることは間違い無いだろう。
 仮にデータテーブルごと書き替えられていたとするならば、そしたら別の方法を考えなくてはならない。
「……でも、ギザギザの葉が見つからなかったら、どうすれば良いんでしょう?」
「そのときは、新たに『忍師(しのびし)』を雇うしかありませんね」
「忍師? 確か『上位ジョブ』のうちの一つだったと記憶してるけど、不人気ジョブの一つだから、実際にそれでレベルカンストに近い人間(プレイヤー)は居ないんじゃない?」
「あんたみたいなレベルカンスト勢を基本にしないでくれ……。それで? 忍師を雇うとどうなるんだ?」
「忍師には、『隠れ蓑の装備』を補うスキルである『隠密スキル』を使うことが出来ます。それに、それがパーティ全員に使うのが出来るということも」
「だったら最初から忍師に依頼をした方が……あ、」
「だから行ったじゃないですか、貴方自身が。今さっき。忍師は不人気ジョブの一つで、実際に高レベルまで存在している人間が居るかどうかも危ういって」
「そういうことね……。確かにそうかもしれない。その通りなのかもしれない。実際問題、見つかるかどうか分からないものを探した方が一番っていうことになってしまうのだけど」
「それは、致し方無いことですね。私も想定していなかった事案ですから」
「とは言っても……」
「じゃあ、どうしますか?」
 レオンは、両手を左右に広げて、話を続ける。
「これから見つかるかどうかも分からないギザギザの葉を探し続けるか、居るかどうかも分からない高レベルの忍師を傭兵から探し当てるか。どちらにせよ、答えは二つに一つですよ。さあ、どちらを選択しますか?」

   ◇◇◇

 結局。
 私たちはギザギザの葉を探すことにした。
 忍師を探すよりも、ギザギザの葉を探した方が効率が良いという判断に至ったから?
 否。
 ギザギザの葉がデータテーブルごと消えている可能性は限りなく低いと思ったから?
 否。
 答えは、そのどちらでもない。
 答えは、隠れ蓑の装備を一目見てみたかったから。そう言うと、巫山戯るなと言われても仕方無いことになってしまうのだけど、私にとって隠れ蓑の装備は今だ使ったことのない装備だったし(というか、今まではレベルでごり押してた節がある)、他の人間にとってもギザギザの葉を売り払うことはあってもそれを加工した『隠れ蓑の装備』は意外にも使ったことがない、という形だったのだ。
「でも、期限は設けましょう。【アビスロード】に会ったことはありませんが、普通に考えて時間をかけてしまったら、それだけ【アビスロード】が怒りに包まれるのは間違いありません」
「【アビスロード】の怒りを考慮する必要があるってこと?」
「ええ、そうです。そうしないと、今捕まっている二十人の人間がどうなるか、分かったものではありません。それぐらいは分かりますよね?」
 
 

第三章 ⑨

  • 2019/02/11 17:10


  ⑪

 火山の麓にある森林。
 一言で言えば、ついさっきロギ族の集落に向かうために突き進んでいた道中。
「あーあ、まさか直ぐUターンすることになるなんて。だったら、ギザギザの葉だか何だか知らないけど、適当に手に入れとけば良かったわね」
「そんなこと言われたって、きっと気づかないでしょう?」
 私の言葉に、いちいち文句を言わないでよ!
 まあ、私が言葉を口にしなければ済む話なんだろうけど!
「……ところでギザギザの葉ってどんな植物な訳?」
「文字通り、ギザギザで大きな葉っぱのことを言うんだけど、知らないの? 序盤のクエストで高値で売れる商品の一つだったと記憶してるけど」
「それは、Ver1.5以降の話でしょ。私はVer0.9からやってるから、ギザギザの葉なんて知らないのよ。もしかして、そこそこお高い代物?」
「今なら一枚三千ダイスぐらいかな」
「三千ダイス!? そりゃ、確かに初心者なら手に入れたい代物であることは間違いないわね……」
「でしょう?」
「おーい。話をしていないで、ギザギザの葉を探してくれよ。それとも見つかったのか?」
 ゴードンの言葉に、私たちは何も答えなかった。
「……答えないってことは、未だ見つかっていないってことなんだな。じゃあ、さっさと見つけてくれよ。そうじゃないと、作戦の算段がつきやしない」
「そうですよ、二人とも。きちんと探してください。ギザギザの葉が見つからない限り、私たちは『隠れ蓑の装備』を手に入れることが出来ないんですから!」
 ゴードンとレオンの言葉もごもっともだった。
 しかしながら、捜索しても見つからないものは見つからないのだ。少しはそれぐらい考慮して欲しいものだけど。
「……それにしても、ほんとうに見つからねえな。いったい全体、何処を探せば見つかるんだ?」
「……そんなこと言われても困りますよ。私だって、見つからなくて苦労しているんですから。まさかとは思いますけれど、誰かがこっそり奪い取っているんじゃ……」
「誰が? 何のために?」
「それは分かりませんけれど……」
「【アビスロード】が悪戯してたりとか?」
「………………有り得そうで困る」
 あの退屈そうで面倒臭そうで面白いことが大好きな狂った【アビスロード】、白き女王ならばやりかねない。
 まあ、実際にやるかやらないかは彼女自身の考えにもよるだろうが――。
「と・に・か・く! 大急ぎで見つけないと、白き女王に囚われた人たちがどうなるか分かったものじゃないんでしょう? 【アビスロード】白き女王が期限を設けたかどうかは別として。もしかしたら気まぐれで私たちがヤルダバオトを倒す前に全員殺しかねませんよ? となると急がないと……」
「それは不味い!」
 既に人一人死んでしまってるのだが、それよりも『少年』を含む全員が死んでしまうことはもっと悪い!
 そうなると、『アビスクエスト』のサービス終了も考えられてしまうだろうし、そうなると私自身の居場所がなくなってしまう!
 利己的な考えだ、だって? でもしょうがないだろ! それぐらい考えて欲しいものだ!
「……ほんとうに見つからねえな、ギザギザの葉」
「いったい何処にあるんでしょう?」
「やっぱり【アビスロード】が悪さしたのかも……」
「でも、どうやって?」
 そう。
 仮に【アビスロード】白き女王が悪さをしたとしても、どうやって悪さをしたのか――その点が注目される。どうやって悪さをしたのか。どうして悪さをしたのか。どのようにして悪さをしたのか。問題は山積みだ。はっきり言って、どうしてこんなことをするのか詰問したいぐらいだ。
 だが、しかし、だ。
【アビスロード】がこんなことをするというのに、何か意味があるのだろうか?
 もしも、『つまらないから』などというくだらない理由でやっているというのなら一言言ってやりたい。
 巫山戯(ふざけ)るな、と。
 そんなことで人の命を操れると思うな。たかがプログラムの分際で。
 そもそも。
 テクノポップ社は【アビスロード】の狼狽を管理してるのだろうか?
 管理してないとするならば、それは大問題と言えよう。
【アビスロード】の狼狽を管理してるとしても、それはそれで問題だ。人の命を奪った、と言ったのだから。それがほんとうであるかどうかはまた別として、それは脅迫と言っても過言では無い。プログラムが人間に脅迫をするなど、そんなことは有り得るのだろうか?
「……何か、考え事をしているようだが」
 言ったのは、ゴードンだった。
 私の思考を、読まれてるのか?
 ゴードンはさらに話を続ける。
「もし、何か考えているならば、それはさっさと諦めた方が良い。『ギザギザの葉』を見つけるということ、それを実際にやってのけない限り、俺たちに道は無い。それに、ギザギザの葉はそれ程レアリティの高い物じゃない。だから、ギザギザの葉を消すとしたらデータテーブルごと書き替えなければならないだろう。そうなるとやってのけることが出来る人物というのは――」
「――テクノポップ社の人間がやってる、って言いたいの?」
 私の問いに、ゆっくりとゴードンは頷いた。
 

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